原菜南子 企画「ミラクルウォーター(仮)」 5分の短編3本の形を考えています。 SideA(糸井歩の話) ある日、歩は老人ホームから父親の認知症の進行が早まっているとの連絡を受ける。小さい頃か ら父親は、”病気が治ると謳われたミラクルウォーター”を売る訪問販売の仕事をしていた。その ために歩はいじめられ、それが元になり父子には確執が生まれ、歩は父親の元を離れた。老人 ホームに足が進まない歩だったが、歩にとって唯一血のつながった親族で、死に際くらいは会い に行って別れを言おうかと父に会いに行く。ベットに寝ていたのは皺だらけの老人で、敬語で話し てくるインテリの気だけが妙に昔のままである。水を売る仕事を続けていた功績や表彰の数々は ベッドに律儀に飾られており、彼が自分がいなくなってからも何も変わらなかったことを悟る。 父はいつも聞いていた昔話を戯言のようにぽつりぽつりと話すばかりだ。 帰ろうとした時、市の職員が見舞いに来る。亡くなっている老婆が見つかったが、そこにあった 唯一の電話番号が父のものであったという。歩の父は訪問販売の時必ずお茶をご馳走になって、 老人の話し相手をしていた。歩は反吐が出るほど嫌いだった父の仕事が人助けの側面もあったと 知って、複雑な思いを抱く。 SideB(影山千鶴の話) 千鶴は日々忙しくしている。ある時、飼い猫が危篤だという連絡を母から受けて実家に帰ると、 認知症が進行している母がいる。そして、“ミラクルウォーター”のダンボールが積み重なってい る。「悪徳商法に引っかかった母をどうしてそのままにしていたのか」、と母とよく会っている弟 に問うも、「千鶴が家からいなくなって姿を見せないからその寂しさで水を買ったんだろう、水 は彼女の拠り所だから、キャンセルしないで稼いでいる千鶴がお金を払ってくれ。」と諭されてし まう。千鶴はひとまず、段ボールに書いてある電話番号に電話をしてみることにする。 SideC 歩は老人ホームの職員に、父親はもう電話に出られる状態にないからと父の携帯を手渡されてい た。そこにある女(千鶴)から電話がかかってくる。歩は、ひとまず会ってみることにする。千鶴は 想像していたような悪徳商法の顧客ではない。話を聞くうち、歩は千鶴の境遇が自分と近いこと を知る。お互い背負っているものが同じだからか、彼らは逢瀬を重ねる。そして、歩夢が選んだの は、嫌いだった父の会社で、今の顧客が死ぬまでは水販売をすると言うものだった。自分と近い 境遇の千鶴を見捨てられなかったからだ。でも同時に裏を返せば、千鶴の母も騙して金をとるこ とである。歩と千鶴は、もう会えないことに一抹の寂しさを感じながら、加害者と被害者の関係 に戻る。