Introduction ミクロ経済学 ミク 経済学 第2回講義 北村紘 1 2 経済学とは何か? 経済学 希少性と選択の例(1)時間 今晩の予定 資源が有限であることに起因する意思決定を扱う学問 希少性とは? 欲望される量に比べ、利用できる量が少ない 欲望される量に比べ 利用できる量が少ない すべての資源は希少である 経済学で使う資源は天然資源だけでないことに注意 希少性⇒人々は限られた資源をどのように利用するか決定し なければならない 人生は限られている 限 一方、やってみたい職業は山ほどある プロ野球選手、サッカー選手、弁護士、アナウンサー、CA 特徴 3 勉強をする、食事をする、デートをする、テレビを見る、ネットサー フィンをする等 職業選択 土地、石油、資金、時間、人材等 今晩の時間は限られている 一方、やりたいことはいっぱい 方、やりたいことはいっぱい 4 す てはできないので、何をするか(しないか)を決定しなくて すべてはできないので、何をするか(しないか)を決定しなくて はいけない 希少性と選択の例(2)お金 デ デートの予定を立てる男子学生の例 定を立 る男 学生 例 コンビニの選択 ンビ の選択 予算は手元にある2万円 2万円の使い道 使 道 希少性と選択の例(3)企業・政府 格好よく見せるために服を買いたい いいレストランでディナ を楽しみたい いいレストランでディナーを楽しみたい 彼女にプレゼントを買って喜ばせたい 映画を一緒に見たい 映画を 緒に見たい レンタカーを借りて海へドライブしたい 政府の問題 仮に予算が無限にあれば、すべてやれる よって、希少性⇒選択 ど 政策をやる かを選択しなく はならな どの政策をやるのかを選択しなくてはならない 経済学とは、 希少性のない世界⇒やりたいことはなんでも可能⇒選択を考える ことは重要ではない とは重要ではない 希少性のある世界⇒したいことがすべてできない⇒何をするかを 選択する必要性に迫られる 社会がどのように希少な資源を運営・管理するかを学び考え る学問 分析対象 よ 分析対象によって定義されず、分析のアプローチによって規 定義されず 分析 プ よ 規 定される思考の体系 人々がどのように選択するか(決定ルール)を考えることは大事 個人や企業の決定ル ルの解明⇒次の問題を分析可能 個人や企業の決定ルールの解明⇒次の問題を分析可能 7 日本経済新聞に載っている話が経済学ではない 人々の意思決定に関わる話なら、経済学で分析可能 選択と社会への影響 子供手当て、高速道路無料化、高校授業料無償化 経済学とは 選択 なく 選択しなくてはならない理由⇒希少性 な な 由 希少性 6 希少性と選択(まとめ) 政府の予算は限られている 政府 予算 限 民主党のやりたい政策は多数 5 すべてをやろうとすると予算オーバー コンビニエンスストアの商品棚における商品は限られている 一方 並べたい商品は多数 一方、並べたい商品は多数 どのような商品を並べるか選択しなくてはならない 果たして各個人や企業の身勝手な意思決定により、社会的に望まし い資源配分が行われているのか? 資源配分 行われ る また、行われていない場合、どのように解決すべきか? 8 例 犯罪、法制度の設計、学校選択、臓器交換、中毒 経済学の分析アプローチ ①インセンティブ 重要なキーワード 1. 2. 3. 経済学の考え方① インセンティブ 均衡 効率性 個人や企業などの経済主体の意思決定の背後には必ず 何らかの理由があると考える 各主体のどのような行動原理を持っているかに仮定をお いて分析 消費者⇒もっと満足を得たいというインセンティブ 企業⇒利潤を多く稼ぎたいインセンティブ 10 インセンティブを考えないと インセンティブを考えていない仮定 ブを考 な 仮定 限られた経営資源(生産設備、人材)で自社の利益を最大にした い もちろん、行動原理は多様⇒上記の仮定が最も出発点と しては妥当 9 限られた予算の中で、自分の満足を最大にしたい 状況が変化しても人間の行動は常に一定と仮定していることを意 味する 例えば、道路渋滞がなくなったとしても、渋滞時と同じのろのろ運 転を続けると仮定している しかし、人間は早く移動したいというインセンティブを持っている つまり 渋滞が無くなれば のろのろ運転から制限速度あたりまで つまり、渋滞が無くなれば、のろのろ運転から制限速度あたりまで 速度を上げるはず もし、のろのろ運転をすることを前提に議論をすると東京と横浜の もし、のろのろ運転をする とを前提に議論をすると東京と横浜の 移動に10時間かかると予想してしまうかもしれない 明らかに間違った議論 11 インセンティブの重要性 問 安全で頑丈な車を作ると交通事故死亡者は減るか? インセンテ ブを考慮に入れない場合 インセンティブを考慮に入れない場合 絶対に減る 今までなら死んでいたはずの事故でも助かる インセンティブを考慮に入れた場合 増える可能性もある 人間の持つインセンティブ 12 基本的に早く移動したいが死にたくもない 安全な車⇒事故が起こった場合の死亡リスク低下⇒今までよりもスピードを出 して運転をしてしまう可能性(事前のインセンティブへの影響) スピードを出す効果によって、事故の発生率が増加し、交通事故死亡者が増 加する可能性がある インセンティブの重要性(事例) アメリカのシートベルト法 ベ 法 練習問題 アメリカで1960年代にシートベルトを含む様々な安全装置を すべての新車に義務付けた シートベルト⇒交通事故死亡数の減少? シートベルト法が交通事故死亡者数を増加させた恐れあり シートベルト法によって、事故が増加(インセンティブ効果) ベ 法 事故が増加(イ ブ効果) ドライバーの死者数は変化しない⇒1件あたりの死者は減少 (シ トベルト法の直接効果) (シートベルト法の直接効果) 歩行者の死亡者数が増加 今まで2点にしかならなかったエリア からシ からシュートを打ったら3点になる トを打 たら3点になる すなわち、点数が増えて客も喜ぶ 結果 リーグの1試合あたりの点数は増えず、 97年に元通りに戻った 問題 13 ゴール なぜ、点数が増えなかったかインセン ティブを使って説明せよ 14 ②均衡 答え ゴ ル ゴール 均衡 あることが社会で繰り返し起こっているとする つまり、個人が一方的に自分の行動を変えようとするインセン テ ブを持たないと解釈可能 ティブを持たないと解釈可能 この状態を均衡と呼ぶ 例 ゴール 15 1994年にバスケットボールのプロリー グNBAで3点シュートエリアが内側に変 更された 更された。 ゴール ゴ ル 変更の意図 ペルツ ン(19 ) ペルツマン(1975) NBAの例 16 ジュースの価格が120円のまま⇒どのジュースメーカーも行 動を変えようとしない ③効率性 個人 行動 社会 個人の行動の社会への影響 影響 各経済主体が自らの利益を最大にしようとして行動した場合、社 会全体の利益が最大にな ているとは限らない 会全体の利益が最大になっているとは限らない 社会全体の利益が最大になっているかどうかを分析するには社 会の利益を定義しないといけない 社会全体の利益を図る指標⇒効率性 経済学の分析手法 ある社会現象にどのような非効率性が潜んでおり、どのような手 段(政策)によって解決可能かを分析 17 簡単化への批判への批判 抽象化 簡単化 重 性 抽象化、簡単化の重要性 現実はあまりにも複雑で、すべてを考慮に入れると人間の知 能では対応不可能 このため問題を分解し、不要な部分をそぎ落とすことで、注目 したい社会現象の背後にある本質的な部分に迫るべき 主張したい内容を説明するためには、不要な要素が入ってい る るとややこしい 例 19 仮定⇒結果 複雑な社会をモデルを使って抽象化し、簡単化 制度、税、環境の変化が社会にどのような影響を与えるか予 測を立てる 18 モデルの抽象化 簡単化 モデルの抽象化、簡単化 モデル分析 とりあえず経済学の論文を見てみよう あ ず経済学 論 を う モデル分析 経済学の目標 経済学 分析手法 特色 経済学の分析手法の特色 (仮に)蛇に足があると蛇が足が無くても移動することができるのか を説明するのが難しくなる よく聞かれる経済学批判 経済学のシンプルなモデルでは、複雑な現実社会を説明でき るとは思えない。よって、社会を分析する上で有用な学問とは 思えない。 思えない 批判に対する批判 20 地図を作る際に、等身大の地図でないと複雑な地形を再現で きないと主張しているのと同じ 等身大の地図⇒探検や旅行をする際にまったく役に立たない ならば、地形の大事な特色を残した縮小地図を利用した方が 役に立つ モデル分析を行うメリット1 例 ①効率性 分析が 能 ①効率性の分析が可能 様々な状況の分析が可能 独占禁止法 社会的に望ましい状態と各経済主体が利己的に行動した状態 社会的 望ま 状態と各経済主体が利 的 行動 た状態 競争がある場合とない場合の比較 事前のインセンティブと事後のインセンティブの比較 部分と全体の比較 21 22 例 例 途上国におけるエイズの治療薬 事実とよく聞かれる議論 価格の下落⇒消費者はうれしいが企業の利潤は低下 社会全体では競争が望ましいかどうかはモデル分析によって どのような条件の下で望ましいか議論が可能 別の表現を使うと、競争が望ましくない結果も出せるが、どの ような前提条件で成立しているか容易に整理できる 労働者 対する解雇規制 労働者に対する解雇規制 よくなされる議論 解雇規制⇒労働者の雇用が守られる 失業者や大学生を含んだ議論 エイズの治療薬の開発には膨大なリスクと費用がかかる もし、エイズの治療薬を高く売れないのであれば、そもそも治療 薬を開発しようとする製薬会社は現れないであろう そうすると、先進国の人たちも助からなくなる 不況⇒雇用を守るため、労働者の解雇をできなくするべき 雇 を守るため 労働者 解雇を きなくするべき 今雇用されている人にしぼった議論 解雇規制⇒採用したら簡単に解雇にできない 企業の持つインセンティブ モデル分析 23 事前のインセンティブを考慮に入れた議論 エイズの治療薬は非常に高い イズの治療薬は非常に高い しかし、実際の生産費用は安価 ならば、先進国の製薬会社に安く売れば世界が救われるのでは ないか? この議論は、エイズの治療薬ができた後の事後的には正しい議 論 独占禁止法⇒競争の促進が望ましいとの考えに基づく法律 競争の効果⇒価格の下落 事前と事後のインセンティブに分けて分析が可能 24 新卒採用や中途採用を減らそうとする モデル分析を行うメリット2 ②論 的整合性を保証 ②論理的整合性を保証 厳密な言語である数学を利用⇒論理に飛躍が起こらない 議論や結果が正しいかを客観的に確認可能 論理がおかしいケース 効果 経済学に対する批判 批判に対する批判 論理に飛躍が発生しやすい 論理が破綻していることに気づかない可能性が高い 巧みなレトリックで聞いてる人が騙されてしまうことがある 複雑な人間行動を論理の飛躍なしに言葉で表すのはもっ と難しい 1+1=2じゃないという主張⇒なんでもありになってしまい、 議論が成り立たない 議 大事なこと 経済主体は合理的であると仮定 人間が非合理だとすると 効果が2倍ではないケース 26 効果 人数 25 恐らくこの表現は1人を2人にすると効果は2倍にならないこと があると主張しているはず 1人+1人=2人であることは暗黙に仮定 効果が2倍ではない可能性⇒数学的に普通 1+1=2じゃないという表現は不正確⇒議論をする際に不適 格⇒数学を使うと人数の問題と効果の問題に分けて考えるこ とが可能で意図が正確に伝わる 直感が正しければ、それを示すシンプルなモデルが存在 合理性の仮定は妥当か? 人数 効果が2倍になるケース 効果が2倍になるケ ス 数学を使わないデメリット 複雑な人間の行動を数式で表すことは、不可能である。世 の中1+1=2じゃない の中1+1 2じゃない よい仮定とは何か? 簡単 簡単(tractable) 個人の選択はランダム⇒何でもあり 予測も不可能 個人の選択はランダム⇒何でもあり、予測も不可能 本質の部分だけを見抜き、それ以外の部分は大胆に簡略化 されている なぜ合理性を仮定するのか? シンプルで扱いやすい 人は思っているほど非合理ではない 27 例えば、家を買う、車を買う、結婚相手を決める場合を考えてみよう この場合、個人は自分の中で一番いい選択をしようとするはず 非合 非合理に見えるのは、個人のインセンティブがモデルで考慮に入れられてないこと 見 る 、個 ティ デ 考慮 入 な 要素によってゆがめられている可能性 例 他人を気にしている、人と優先順位が異なる(見た目か中身か) 間違って非合理な行動をとった場合、次回以降に修正しようとする 現実的 基本的に個人の行動には理由がある 現実の説明力が高い 目的に即している 28 分析目的によってよい仮定は変わる どんな地図がいいかは、分析目的に大きく依存しているのと 同じ 仮定の重要性(物理学の例) ミクロ経済学とマクロ経済学1 物体落下 ビー玉を10階建てのビルから落下させると何秒で地面に到達するかを予 測を立てたい ミクロ経済学 経済学 物理学 物理学のアプローチ プ チ まず、真空中を落下すると仮定し、予測を立てる この仮定は、明らかに非現実的⇒空気抵抗によって落下速度は低下 しかし、ビー玉が受ける空気抵抗は非常に少ない 真空中を落下するという仮定⇒実質には左右されず、問題を大きく簡単化 適切な仮定の変化 ビーチボールを落下させる場合、真空中を落下する仮定は問題が多い ビーチボールは空気抵抗を受けやすい⇒空気抵抗が落下時間に与える影響 が大きすぎる 空気抵抗を考慮に入れたモデル分析が必要 よって、 29 何を分析したいかによって、適切な仮定が変わる 何を分析したいかによって 適切な仮定が変わる ただし、分析の順番は一番簡単なものからやるべき マクロ経済学 マクロ経済学は全体としての経済を研究する学問 経済全体の変数(所得、物価、失業率)などがどのように決定 されるかを分析 経済のパフォーマンスを改善するための政策(財政支出、金 融政策)を立案することが最終目標 日本の特徴 経済学の博士号を持つエコノミストが少ない アメリカの政府機関で働く経済学者は学術的に立派な仕事 をした者に限られる 例 バーナンキ(連邦準備制度理事会議長・元プリンストン大学教授) マンキュー(大統領経済諮問委員会元委員長・ハーバード大学教 マンキュ (大統領経済諮問委員会元委員長・ハ バ ド大学教 授) サマーズ(アメリカ合衆国元財務長官・元ハーバード大学学長) スティグリッツ(大統領経済諮問委員会元委員長 世界銀行副総 スティグリッツ(大統領経済諮問委員会元委員長・世界銀行副総 裁・コロンビア大学教授・ノーベル賞受賞者) 博士号⇒経済の専門家としての免許証 31 法制度(犯罪、離婚、訴訟) 組織(昇進、権限配分、報酬制度) 国際関係(軍縮、戦争) 投票 30 ミクロ経済学とマクロ経済学2 消費者や企業がどのように意思決定を行い、双方の意思決 定が市場でどのように影響を及ぼしあうかを研究する学問 一市場のパフォーマンスを改善するための政策(規制・独禁 法の運用)を立案することを最終目標 また、市場に限定して分析を行わない(本講義では扱わない) 例 医師免許のない人に自分の体(国家)の手術をまかせるのは大変 危険 感や間違 た知識で 治療(政策)をされると健康状態(景気)の 感や間違った知識で、治療(政策)をされると健康状態(景気)の 回復が遅れる可能性が高い 登場する経済主体 消費者⇒需要 企業⇒供給 政府⇒政策 消費者 市場 取引 供給 政策 需要 企業 ミクロ経済学の分析フレ ムワ ク ミクロ経済学の分析フレームワーク 政府 33 経済主体のインセンティブ 34 疑問 仮定 消費者 消費をうまくやりくりして自分の効用(満足度)を最大にしたいと考え ている 企業 労働量や生産設備を有効利用して利潤を最大にしたい 政府 政策によって、社会の利益を最大にしたい 問 政府を除く各経済主体が市場取引を行うことによって達成さ れる資源の配分は社会全体として望ましいのか? 答え 理想的な条件が整えば望ましい 理想的な市場⇒完全競争市場 もちろん、このような市場は存在しない もちろん このような市場は存在しない しかし、出発点を完全競争市場に置くのは悪くない 35 36 完全競争市場の仮定を崩すと非効率に どの要素がどういう効果を持っているのかを容易に理解可能 講義の進め方 経済分析の基本用語 全競争市場 効率性 全競争市場の効率性 1. まず、理想的な状態が実現する完全競争市場を学ぶ 市場の失敗と政府の役割 2. 次に、完全競争市場が満たしている仮定が崩れると市場 によって効率的な資源配分ができなくなる可能性を学ぶ 最後に解決手段として政府の役割を考える 後 解決 政府 役 を考 る 占市場分析 3. 企業間の戦略的相互依存関係を分析 ゲーム理論を学ぶ 37 38 財 経済主体 私的財 商品 物質的な形態をとるもの 例 食料品、工業製品 食料品 業製品 サービス 本格的な分析に入る前に、経済学の基本的な用語を説 明 物質的な形態をとらないもの 教育、銀行振り込み 公共財 政府によって、供給されている特殊な財 例 国防、消防、道路、公園、下水道 なぜ 政府によ て 供給されるかは2学 に議論 なぜ、政府によって、供給されるかは2学期に議論 経済主体 消費者 財を消費する経済主体 生産者 経済の中で活動する人々や組織⇒3種類に分類可能 財を生産する経済主体 基本的に企業のことをさす 政府 39 40 税を徴収し、公共財を供給 法律や制度を設計 生産と消費 生産物 企業が生産する財 練習問題 時効制度の存在意義をインセンティブの観点から議論 せよ。 生産要素 企業が生産に使う財 41 労働 資本⇒機械 土地 42