OS 1-11 第 35 回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム 2023 年 6 月 12 日~14 日 制動トルク向上を目的とした磁気粘性流体ブレーキの設計及び評価 Design and Evaluation of Magnetorheological Fluid Brake with Objective of Improved Braking Torque 彦坂 岳志(学生員)*1,菊池 良巳(正員) *1, 野村 仁(学生員) *1,曽根原 誠(正員) *1,佐藤 敏郎(正員)*1 Takeshi HIKOSAKA (Stu. Mem.), Yoshimi KIKUCHI(Mem.), Jin NOMURA (Stu. Mem.), Makoto SONEHARA (Mem.), Tosiro SATO (Mem.) Demand for aircraft is expected to increase, reaching twice the current level by 2041. As a result, there is concern about the increase in carbon dioxide emissions from aircraft, and research on electrification of aircraft is being conducted worldwide to reduce emissions. The authors have proposed a non contact hybrid braking system for electrically powered aircraft using an electronically controlled eddy current brake and a magnetorheological fluid brake. However, the conventional magnetorheological fluid brake had insufficient braking force. To improve the braking force, a magnetorheological fluid brake with an increased braking range was designed and an actual machine was fabricated. The results of evaluation using the actual machine showed that the braking torque was about five times higher than that of the conventional brake. In the future, the plan is to construct a control model that maintains constant torque. Keywords: magnetorheological fluid, machine learning, brake, aircraft. 事務局記入→(20??年??月??日受付) 1 緒言 な制動トルクを得ることができない[3]。第 2 世代にマ ルチディスク MRB がある。多盤式なため,シングル 今後,航空機需要が増加すると予測されており, ディスクより高トルクを出せるようになった。しかし, 2041 年には現在の需要の 1.7 倍に達すると予測されて ディスクの枚数が増えたため,磁気抵抗が増加し,消 いる。それに伴い,航空機から排出される CO2 の排出 費電力が大きくなってしまう。そこで,円筒型 MRB が 量の増加が懸念されており,世界各国では排出量削減 採用された。円筒型の MRB は,磁界がディスク型と のため,航空機の電動化に関する研究が進められてい 比べて制動部分に集中しやすい。また, 円筒の外面の る。著者らは,航空機の電動化に向けて,電子制御可 みを使用しているため,マルチディスクよりも高トル 能な渦電流ブレーキ(ECB: Eddy Current Brake)と磁気粘 ク,低慣性かつシンプルな構造で作成できるため,効 性 流 体 ブ レ ー キ の (MRB: Magnetorheological Fluid 率よく制動を行うことができる[4]。よって,我々の研 Brake)を組み合した非接触型ハイブリッドブレーキシ 究室では主に円筒型 MRB についての研究を行ってい ステムを提案している[1]。ECB,MRB ともに非接触式 る。 ブレーキとして扱われるため,従来の接触式のブレー 我々の研究室の先行研究で設計された 2 極の円筒型 キと比較すると摩擦による摩耗が減少し,メンテナン MRB では制動トルクを十分に出すことができなかっ ス負荷の低減が可能となる。また,従来のブレーキシ た。そこで,制動トルク向上のためコイルの数を増や ステムに必要不可欠である油圧機構を除去でき,航空 した多極円筒型 MRB を提案した。従来の円筒型 MRB 機の軽量化,小型化が期待できる[2]。本稿では MRB のコイルは 2 スロットであったが, 今回提案する MRB について述べる。 はコイルを 6 スロットに増やし,制動トルクの向上を MRB については多くの先行研究がなされており, 図った。多極円筒型 MRB は,構造が従来の円筒型の 第 1 世代にシングルディスク MRB がある。しかし, MRB と比べると複雑であり, 構造の最適設計が必要で これはディスク表面に磁界の分布の偏りがあり,十分 あった。 連絡先: 彦坂 岳志,〒395-0001 飯田市座光寺 3349-1 エスバード C 棟 2 階,信州大学大学院総合理工学研究科, e-mail: 22w2084f@shinshu-u.ac.jp *1 信州大学 そこで本研究では,多極円筒型 MRB の最適設計の プロセスについて述べ,その後設計した実験機を用い て評価, 検討を行った。 従来の MRB と多極円筒型 MRB の制動トルクを比較し,多極にしたことによる制動ト ルクの影響について検討した。 A Core(S45C) 2 多極円筒型 MRB の原理とモデル Coil(Cu) B 2.1 磁気粘性流体ブレーキ(MRB)の原理 Rotor(SUS303) D B 磁気粘性流体ブレーキの原理について述べる。磁気 粘性流体に磁場を印加することにより,磁束の方向に C E 粒子が鎖のように集まっていく。この鎖状の構造が Rotor(S45C) Sealing(Al) Gap(MRF) MRF の動きを制限し,せん断応力が発生することで, 制動力を得る。制動トルクの値は外部磁場の強さを変 えることで連続的に調整することが可能である[5]。こ のとき,せん断応力𝜏は次式で示される。 よって,多極円筒型 MRB の MRF 充填部であるギャ (1) 𝜏 = 𝜏𝐻 𝑠𝑔𝑛(𝜸̇ ) + 𝜇𝑝 𝜸̇ ここで,𝜏H:印加磁界による降伏応力[Pa],𝜇𝑝 :磁気 粘性流体の粘度[Pa・s],𝛾̇ :せん断速度[s-1]である。磁 気粘性流体の隙間が非常に小さいと仮定し,式を変形 すると制動トルクを次式のように示せる。 𝑇𝑏 = 𝐴𝑠 𝑟𝑘𝑯𝑴𝑹𝑭 + 𝐴𝑠 𝜇𝑝 𝝎𝒓𝟐 𝒉 Fig.1 2D model of a multipole cylindrical MRB (1/3). ップの磁束密度を最大化することを目的関数として最 適設計を行った。このとき,5 つの設計変数を設定し, 制約をかけた。最適設計を行う際,航空機のタイヤの サイズに合わせる必要がある。よって,ブラジルの航 空機メーカーが製造しているエンブラエル 170 の寸法 に基づき, 実機の 1/5 サイズのブレーキを作成した[7]。 そのための設計要件を Table 1 に示す。このとき,Table (2) ここで,𝐴𝑠:作用表面積[m2],𝑟:回転軸からの距離[m], 𝑘:流体依存のパラメータ[Pa/A/m],𝜔:角速度[rad/s], ℎ:ギャップの厚さ[m]である。(2)式より,印加された 磁界によって生成されるトルクと流体の粘度によって 生成されるトルク(オフトルク)と 2 種類のトルクが存 在することが分かる。本研究では主にこの 2 種類のト ルクを併せた𝑇𝑏 について述べていく。 2.2 多極円筒型 MRB のモデル 今回,提案する多極円筒型 MRB の 2D モデルの 1/3 モデルを Fig.1 に示す。コアは S45C,ロータは S45C, SUS303,コイルは Cu 線で構成されている。解析時間 短縮のため,本研究での設計の解析は Fig.1 のモデル で行った。 3 多極円筒型 MRB の設計方法 3.1 設計方法 多極円筒型 MRB はコイルの数を増やすことにより, 1 と Fig.1 のアルファベットは対応している。 最適設計を行う際,2 種類の方法で行い,その 2 つ の結果を比較した。1 つ目は遺伝的アルゴリズム(GA: Genetic Algorithm)を用いて最適化を行った。遺伝的ア ルゴリズムは,進化的アルゴリズムの 1 種であり,選 択,交叉,突然変異といった確率的操作を使って次の 世代,さらにその次の世代を作ります。これを繰り返 すことによって,より強い世代の個体群を生み出し, 問題を解くことができる[8]。今回は,電磁界解析ソフ トウェアである JMAG(c)に標準搭載されている遺伝的 アルゴリズムを用いて最適化を行った。個体数,世代 数はともに 50 とした。 また,もう1つの方法がサポートベクターマシン (SVM: Support Vector Machine)を用いた応答曲面法によ る最適化である。サポートベクターマシンとは,カー ネルトリックと呼ばれる手法を用いて,非線形の識別 関数が構成できるように拡張したものである。これは 基本的には 2 つのクラスを識別する分類器であり,今 回はそれを回帰に応用したサポートベクターリグレッ ションを用いる[9]。JMAG で解析した複数のデータを サポートベクターマシンに学習させ,作成した学習モ 多極磁場を発生させることができ,制動トルクの向上 デルを用いて応答曲面を作成し,その曲面上から最適 に繋がる[6]。また,磁気粘性流体にかかる磁場の大き 解を探索した。サポートベクターマシンのプログラム さによって制動トルクの大きさが決まる。 は Python の Scikit-learn ライブラリを用いた。カーネル Table 1 Design variables and Conditions. Symbol Design variables Constraint A B C D E Back yoke width Teeth width Rotor width Brim width Aperture angle 2~10mm 5~10mm 1~14mm 1~4mm Core(S45C) Sealing(Al) Coil(Cupper) Rotor(S45C, SUS303) 30~55° Table 2 Result of parameter optimization. Results Item GA SVM Back yoke width 50.0mm 48.3mm Teeth width 10.0mm 10.0mm Rotor width 13.5mm 12.1mm Brim width 22.4mm 22.4mm Aperture angle o41.0° Magnetic density flux O0.668T Fig.2 3D model of a multipole cylindrical MRB. Motor 46.6° 0.671T Torque meter はガウスカーネル, Regularization parameter は 1,不感 損失関数は 0 とした。 このとき,印加電流は 10A ,各コイルの巻き数は Rotation rod 80turn とした。今回, 2 つの最適化の結果を比較し, 最適解か否かを判断する。これはどちらの方法も最適 解に到達する十分な信頼性がないため,2 つの結果を MRF brake 比較することで最適化の結果に信頼性を持たせるため である。 3.2 設計寸法の決定及び実験機の製作 遺伝的アルゴリズムを用いた場合とサポートベク ターマシンを用いた場合,それぞれの最適化の結果を Fig.3 Appearance of multi-pole cylindrical MRB experimental apparatus. Table 2 に示す。遺伝的アルゴリズムとサポートベクタ ーマシンを比較すると,差が十分小さいため,これら の結果が最適値で間違いないと考えられる。 今回は,コイルの巻きやすさを考慮し,遺伝的アル ゴリズムの結果を採用し,実験機を製作した。製作し た実験機の 3D モデルを Fig.2 に示す。また,実験機全 体の外観を Fig.3 に示す。 各コイルには𝜙=0.8mm の Cu 線を 95 回巻き,回転 ロッドは S45C という磁性材と SUS303 という非磁性 材料で構成され,直径が 38mm,長さが 20mm のもの, 磁性体コアは S45C を使用した。また,磁気粘性流体 の封止のため,ギャップ部に厚さが 0.6mm ほどのアル ミカップを挿入した。残りのギャップ部に磁気粘性流 体を充填した。実験装置はモータ,トルクメーター, 回転ロッド,ブレーキ部で構成されている。コイルに は直流電源が接続されており,モータには制御装置が 接続されている。また,トルクメーターから出力され るアナログ信号をデジタル変換し,制動トルクを記録 する。 4 多極円筒型 MRB の基礎特性 本節では, 多極円筒型 MRB の基礎特性について述 べる。 4.1 励磁電流-制動トルク特性 励磁電流を 0.5A 毎に変化させたときの制動トルク 2.5 14 500rpm 1000rpm 1,500rpm 2pole: 1,500rpm 500rpm 1000rpm 1,500rpm 2pole: 1,500rpm 12 Torque density Td [kNm/m3] Brake torque T [Nm] 2 1.5 1 0.5 10 8 6 4 2 0 0 0 1 2 3 4 Current I [A] 5 6 7 8 Fig.4 Current-Brake torque characteristics when 0 1 2 3 4 Current I [A] 5 6 7 8 Fig.5 Current-Torque density characteristics when changing rotational speed. changing rotational speed. の特性を Fig.4 に示す。このとき,回転速度は 500, る。本論文では,従来のブレーキの制動トルクの不足 1,000,1,500rpm とした。また,比較として先行研究で という課題に対して,新構造のブレーキを開発するこ 設計された 2pole の円筒型 MRB 制動トルクの値も参 とで課題の解決を図った。結果として,従来のブレー 考までに記載している。 キの約 5 倍の制動トルクを得ることができた。 今後は, 多極円筒型 MRB は,制動力の向上のため,従来の MRB より作用面積が 4 倍,コイルの数が 3 倍になっ た。よって,トルクは 12 倍になると予測できる。しか し,Fig.4 に示すように従来の MRB と比較すると,制 動トルクが約 5 倍の大きさになると分かる。これは, MRF が占めるギャップの割合が従来のブレーキに比 べ,半分であるため,制動トルクに減少が生じるから である。MRF がギャップを占める割合が少ないと,制 動トルクは小さくなることが分かっている[10]。これ らの理由から多極円筒型 MRB の制動トルクが従来の MRB の制動トルクの約 5 倍の大きさになると考えら れる。 4.2 励磁電流-トルク密度特性 前項の制動トルクをトルク密度に変換した特性を Fig.5 に示す。記載内容は Fig.4 と同様である。トルク 密度とは出力される制動トルクをブレーキ部分の体積 で割ったものである。Fig.5 に示すように従来の MRB と比較すると,トルク密度が約 5 倍になると分かる。 従来の MRB よりコンパクトかつ低電流で高いトルク を出すことができる。これはコイルを増やし,コイル 同士の距離を短くすることによって装置をコンパクト に設計したからである。 5 結言 著者らは,航空機の電動化に伴い,電子制御可能な 非接触式ハイブリッドブレーキの研究開発を行ってい 磁気粘性流体ブレーキの実用化のため,制御モデルの 構築および解析に取り組む予定である。 参考文献 [1] 日本航空開発協会,民間航空機に関する市場予,pp. 2028,2021. [2] 堀,望月,菊池 他,Cu/SPCC 複合材ディスクを用い た三相交流励磁渦電流ブレーキの制動トルク ,日本 AEM 学会誌,Vol.29,No.2,2021. [3] 志賀,航空機用磁気粘性流体ブレーキのトルクと時定 数の基礎検討,信州大学平成 30 年度学士論文,pp. 2535,2018. [4] T. Kikuchi, K. Kobayashi et al, Design and Development of cylindrical MR Fluid Brake with Multi coil Structure, Journal of System Design and Dynamics, Vol.5, No.9, pp. 1471-1483, 2011. [5] J. huang, JQ. Zhang et al, Analysis and design of a cylindrical Magnetorheological fluid brake, Journal of Materials processing Technology 129, pp. 559-560, 2002. [6] Y. shiao and M.B. Kautipudi, High torque density magnetorheological brake with multipole dual disc construction, Smart materials and Structure, pp. 1-13, 2022. [7] 横山, 航空機用ダブルロータ型渦電流ブレーキの制動力 に関する研究,信州大学大学院令和 4 年度修士論文, pp. 20-29,2023. [8] J. Prateek, Python による AI プログラミング入門, オラ イリージャパン, pp. 175-177, 2019. [9] 栗田,サポートベクターマシン入門,産業技術総合研究 所資料,pp. 1-10,2020. [10] T. Lopez and R. Laura, Effect of gap thickness on the viscoelasticity of magnetorheological fluids, Journal of A pplied Physics, pp. 1-4, 2010.