抗菌性物質の適正使用と 乳生産効率の改善に向けた 牛乳房炎における免疫応答の監視と調節 Monitor and modulate immune responses in bovine mastitis to improve antibiotic stewardship and efficiency in milk production 帯広畜産大学大学院 畜産学研究科 畜産科学専攻 博士後期課程 黄哲璿 Huang Che Hsuan 2 序論 乳房炎とは • 病原体の感染による乳腺の炎症反応 • 症状:発熱、乳房の腫脹、異常乳、体細胞増加 • 対策:搾乳衛生、抗菌性物質治療 乳房の腫脹 異常乳 序論 3 乳房炎原因菌の分類 細胞壁の染色性 陽性菌 陰性菌 ブドウ球菌 レンサ球菌 大腸菌群 伝播パターン 伝染性 環境性 黄色ブドウ球菌 (SA) 無乳性レンサ球菌 マイコプラズマ 環境性ブドウ球菌 (CNS) 環境性レンサ球菌 大腸菌群 病原性 Major原因菌 Minor原因菌 SA レンサ球菌 大腸菌群 CNS コリネバクテリウム 序論 4 乳房炎による損失(年間) 報告 総損失 乳量損失 治療費・ 廃棄乳 淘汰 1999 Yalcinら 19,500 14,700 2,100 2,700 2005 Østergaardら 21,600 16,000 5,600 - 2008 Huijpsら 20,700 14,800 2,200 3,300 2010 Nielsenら 15,800 9,700 5,900 0 2016 Van Soestら 17,800 10,200 3,900 3,000 *単位:円/牛 序論 5 乳房炎のコントロール 5-points plan (全米乳房炎協議会, 1960s): • 搾乳前後の消毒 • 乾乳期治療 (抗菌性物質の乳房注入) • 臨床型乳房炎の治療 (抗菌性物質の乳房注入) • 慢性感染牛の淘汰 • 搾乳設備の定期点検 ➜ 伝染性原因菌検出、バルク乳体細胞数↓ 抗菌性物質用量↑ 序論 6 One Health 環境に残留 環境 耐性菌発生 耐性菌発生 人間健康 人間に使う 抗菌性物質 動物健康 耐性菌発生 Wiki: https://en.wikipedia.org/wiki/One_Health 動物に使う 抗菌性物質 序論 乳房炎対策における 抗菌性物質の適正使用 • 盲目的乾乳期治療 ➜ 感染リスク高い牛が対象の 選択的乾乳期治療(SDCT) • 臨床型乳房炎に対する盲目的治療 ➜ Culture-based selective therapy • 抗菌性物質が主体の治療法 ➜ 免疫応答を調節する免疫療法 例:大腸菌ワクチン、牛顆粒球コロニー刺激因子 7 序論 8 乳房炎における免疫応答 細胞性免疫 IL10 SCC ↑ IL1β TNFα マクロファージ 好中球 IFNγ IL12 抗原提示 *SCC: 乳中体細胞数;Igs: 免疫グロブリン キラーT (CD8+) IL10 ヘルパーT (CD4+) IL4 液性免疫 IL6 Igs ↑ B細胞 序論 9 免疫応答による乳房炎の監視 乳中 CMT変法 (CMT) 体細胞数 (SCC) 好中球↑ 種別体細胞数 (DSCC) 血中 乳腺感染 好中球↓ グロブリン↑ 白血球数 (WBC) アルブミン/グロブリン比 (A/G比) 序論 本研究の目的と計画 目的: 免疫応答の監視と調節により、牛乳房炎における 抗菌性物質の使用管理と乳生産の効率を改善する 研究計画: 1. 選択的乾乳期治療の有用性を確立 2. CMT変法結果と体細胞組成との関連性を調査 3. 乳生産と体細胞組成との関連性を調査 4. 乳房炎重症度、原因菌による特異的な免疫応答を調査 5. 免疫調節による新たな乳房炎対策の検討 10 総合考察 11 乳房炎対策の改善策 乾乳期治療 研究① SDCTの 有用性の検討 乳腺感染 研究② CMT変法 による摘発 臨床型乳房炎 研究④ 原因菌、 重症度別特異的 な免疫応答 研究③ 乳腺感染が生産性 生産性、治療策 に与える影響 に与える影響 研究⑤ キトサンによる免疫応答の調節 → 乳房炎再発と乾乳期乳腺感染の防止 生産性向上と抗菌性物質の使用低減 第 1 章: 選択的乾乳期治療における乳腺感染 の予防効果に影響するリスク因子 Effect and Limitation of Selective Dry Cow Therapy 背景 13 分娩後乳房炎の要因と対策 各泌乳期の乳腺感染リスク(1981 Natzke) 乾乳期乳腺感染予防 ➜ Dry Cow Therapy (DCT) 背景 14 乾乳期治療の変遷 Blanket dry cow therapy (BDCT) ↓ 乳汁培養検査 体細胞数 CMT変法 Selective dry cow therapy (SDCT) 材料方法 15 日本におけるSDCTの実施 目的:1. 日本におけるSDCTの実施の適合性判定 2. SDCTの効果に影響するリスク因子の認定 試験農場:本学畜産フィールド科学センター 試験時間:2020年3月から2021年1月 供試動物:ホルスタイン種経産牛44頭 実験方法:乳汁培養検査、乳房炎歴とCMT変法に基づく SDCTの実施及び乳腺感染リスク因子の調査 調査項目:乾乳期乳腺感染、牛群衛生、乳頭シール付着状況 材料方法 16 試験の流れと試験区の作成 乾乳前乳腺感染、CMT変法と乳房炎歴の調査 高リスク牛 低リスク牛 抗菌性物質使用 抗菌性物質非使用 乳頭シール貼付 感染 分房 感染使用区 非感染 分房 健常使用区 非使用区 分娩予定日14日前乳汁培養検査 17 結果 分娩前乳汁培養検査結果 抗菌性物質 低減 病原菌 感染 使用区 健常 使用区 非使用区 合計 分房数 (%) 58 (35.0%) 52 (31.3%) 56 (33.7%) 166 (100%) 分娩前 感染率 40.8% 19.2% 28.6% 29.6% オッズ=1.67 (P=0.27) SDCTの効果に 影響するリスク因子 結果 同居牛群の衛生スコア (乳房後面) 乳頭シール付着日数 健常使用区 非使用区 健常使用区 非使用区 P = 0.46 P = 0.014 P = 0.67 P = 0.011 綺麗 汚い 非感染 感染 非感染 感染 分娩前の感染状況 長い 短い 非感染 感染 非感染 感染 分娩前の感染状況 18 考察 乳頭シールの使用と SDCTの乳腺感染防止効果 報告 2020 Roweら 2019 Kaberaら 2018 Vanhoudtら 2021 Niemiら 2018 Vasquezら 2014 Scherpenzeelら 効果 ○ ○ ○ △ △ × 乳頭保護 内部性 内部性 内部性 3.5割は内部性 外部性 なし 19 結論 20 日本におけるSDCTの実施 日本は内部性乳頭シールの使用が未承認 • 衛生管理が良く、乳腺感染率が低い牧場 → 乳頭シールの保護効果を確認し、SDCT実施 SDCTの効果を影響する他の要因 • 乳腺感染の認定に使う試験の感度 第 2 章: 乳中体細胞組成の変化が CMT変法の結果に与える影響 Differential Somatic Cell Count Affects the CMT 背景 22 CMT変法とは 界面活性剤が体細胞を破壊し、細胞内容物を凝集 ➜ 体細胞数を推定 少 体細胞 多 背景 23 各感染期における体細胞の変化 種別体細胞数(DSCC ;%)=リンパ球+多形核白血球(PMN) → マクロファージ(%) = 100 – DSCC (%) 回復期・ 慢性感染期 感染初期 健康 DSCC ↓ DSCC ↑ SCC ↑ 好中球動員 SCC ↓ 組織損傷 体細胞組成の変化がCMT変法に影響を与える? 材料方法 DSCCがCMT変法 に与える影響の調査 調査方法: 乳房炎発生当日、3、5、7、14、21日後に、発生分房に CMT変法を行い(-~3+に評価)、SCCとDSCCを測定 試験農場:本学畜産フィールド科学センター 試験期間:2021年6月~2022年2月 供試動物:泌乳牛41頭(乳房炎58例) 統計分析: SCCをリニアスコア(SCS)に、MAC (=100-DSCC)を その対数に変換し、累積ロジット混合モデルで分析 𝑙𝑜𝑔𝑖𝑡(𝑃(𝑌𝑖 ≤ 𝑗)) = 𝜃𝑗 - 𝛽1 𝑆𝐶𝑆𝑖 - 𝛽2 𝑙𝑜𝑔 (𝑀𝐴𝐶𝑖) - day𝑘 - 𝛾𝑚 24 結果 25 分析結果と結果による予測 結果の概要 結果による予測 変数 SCS MAC* の対数 オッズ比 (95% CI) 3.66 (2.89, 4.64) 4.35 (1.91, 9.91) P値 2.71E-44 5.08E-4 マクロファージ (%) リニアスコア5 *マクロファージの割合 リニアスコア(SCS) CMT反応 - ± + 2+ 3+ 26 観察例(臨床型乳房炎の回復) マクロファージ (%) 考察 CMT変法 乳房炎経過日数 - ± + 2+ 3+ リニアスコア 例922B:体細胞数が低下するが、CMT変法結果が悪化 → 回復している分房に抗菌性物質を使用 27 考察 マクロファージ (%) 観察例(潜在性乳房炎) CMT変法 781C - ± + 753D 2+ 3+ リニアスコア 例781C: 慢性化したためマクロファージの割合が高い → CMT変法は慢性化した潜在性乳房炎の摘発に応用 結論 28 CMT変法の限界や可能性 • CMT変法と乳房炎の回復は一致していない可能性 • CMT変法で治療延長の判断を下すのは短絡的 • CMT変法を高MAC慢性乳房炎の摘発に応用可能 慢性乳房炎を摘発する必要性 (2011 Pinzón SánchezとRuegg) 1. 再発しやすい 2. 治療しても治しにくい 3. 生産性に深刻な影響を与える(第三章) 第 3 章: 体細胞数と種別体細胞数が 乳生産に与える作用 Estimate Mastitis Impact using Total and Differential SCC 背景 30 体細胞数と組織損傷の不一致 健康 回復期・ 慢性感染期 感染初期 DSCC ↓ DSCC ↑ SCC ↓ SCC ↑ 好中球動員 組織損傷 SCC :感染初期 > 回復・慢性期 組織損傷:感染初期 < 回復・慢性期 乳量の変化は? 材料方法 SCSとDSCCの相互作用が 乳生産に与える影響 調査方法: 乳検記録でSCS、DSCCと乳量の関係を分析 調査期間:2021年1月~2022年3月 調査牛群:十勝管内月278農場 調査動物:泌乳牛9万6075頭 (延べ46万0580か月の記録) 分析対象:以下全ての条件に合致したデータ 1. 2. 3. 泌乳日数6 ~ 305日のデータ SCS 2~10.2のデータ(DSCCの測定範囲) 以上の記録を5か月以上持っている牛 → 216農場 9945頭 延べ6万5766か月の記録 31 32 材料方法 一般化加法モデル 体細胞、泌乳日数、季節と乳量の非線形関係を調査 𝒇𝒋 𝜷𝒋 乳量 𝑔 𝐸 𝑦𝑖 リンク 関数(log) SCS、DSCCの相互作用 = 𝑔 𝜇𝑖 = 𝛽0 + 𝛽𝑝𝑎𝑟𝑖𝑡𝑦 + 𝑓1,𝑝𝑎𝑟𝑖𝑡𝑦 𝑓2,𝑝𝑎𝑟𝑖𝑡𝑦 𝑖 𝐷𝐼𝑀𝑖 + 𝑓3,𝑝𝑎𝑟𝑖𝑡𝑦 𝑖 泌乳日数と季節の作用 確率分布:Tweedie分布 𝑖 SCS𝑖 , D𝑆𝐶𝐶𝑖 + 𝐷𝑜𝑌𝑖 + 𝛾ℎ𝑒𝑟𝑑 + 𝛾𝑐𝑜𝑤 牛群と牛の変量作用 33 結果 乳量の変化 SCS、DSCCと乳量の関係(産次別) 2産 3産以上 DSCC(%) 1産 乳量(kg/d) リニアスコア (SCS) SCSが高くてもDSCCが高い → 乳房炎初期 → 乳量正常 SCSが高くてDSCCが低い →慢性化した乳房炎→ 乳量激減 考察 34 DSCC、SCSの変化による 乳損失の推定(95%CI) リニアスコア 産次 DSCC 1 2 3+ 85 75 65 55 40 85 75 65 55 40 85 75 65 55 40 2 4 6 8 10 5.3% (±1.8%) 2.8% (±1.1%) -2.5% (±1.2%) -12.2% (±1.6%) -23.8% (±3.2%) 2.5% (±0.8%) -3.5% (±1.0%) -12.9% (±1.2%) -27.5% (±2.1%) -43.0% (±3.6%) 0.0% -9.0% (±1.1%) -22.0% (±1.6%) -40.1% (±3.3%) -57.4% (±5.0%) -2.0% (±0.5%) -13.8% (±1.2%) -29.7% (±1.9%) -50.3% (±4.1%) NA -3.9% (±1.3%) -19.4% (±1.6%) -39.0% (±2.5%) NA NA 2.6% (±1.6%) 1.5% (±0.9%) -2.7% (±1.1%) -12.2% (±1.3%) -24.1% (±2.5%) 1.1% (±0.7%) -4.5% (±0.8%) -12.5% (±1.0%) -24.3% (±1.5%) -37.1% (±2.6%) 0.0% -9.9% (±0.9%) -21.2% (±1.2%) -34.7% (±2.3%) -47.9% (±4.0%) -0.7% (±0.5%) -14.7% (±1.0%) -28.7% (±1.4%) -43.5% (±3.0%) -56.9% (±5.0%) -0.9% (±1.0%) -20.4% (±1.1%) -38.0% (±1.8%) NA NA 4.6% (±1.3%) 2.1% (±0.7%) -2.8% (±0.8%) -11.6% (±0.8%) -22.2% (±1.5%) 2.1% (±0.5%) -4.3% (±0.6%) -12.9% (±0.8%) -25.2% (±0.9%) -38.2% (±1.5%) 0.0% -9.7% (±0.7%) -21.4% (±0.9%) -36.3% (±1.4%) -50.9% (±2.3%) -1.5% (±0.4%) -13.9% (±0.8%) -28.2% (±1.0%) -45.3% (±1.8%) -60.8% (±2.9%) -2.2% (±0.8%) -17.8% (±0.9%) -35.5% (±1.5%) -55.5% (±3.0%) NA 總結 35 SCSとDSCCが乳量への影響 • SCSが高くDSCCが高い(乳房炎初期) → 健康と同様 • SCSが高くDSCCが低い(慢性乳房炎) → 20キロ以上激減 • 一般化加法モデルは乳損失の推定に役に立てる • app: https://che-hsuan.shinyapps.io/Milk_composition_Jp_ver/ • 展望:SCSとDSCCの変化を引き起こす要因を特定 結果 36 泌乳日数、季節の効果 乳量 泌乳日数の効果 峰 季節の効果 谷 結果 37 泌乳日数、季節の効果 乳脂肪産量 峰 谷 乳蛋白産量 峰 谷 38 結果 気温の影響? 乳蛋白産量 谷 十勝平均気温 峰 結果 39 気温が乳蛋白産量に与える影響 𝑔 𝐸 PY𝑖 𝑓2,𝑝𝑎𝑟𝑖𝑡𝑦 = 𝑔 𝜇𝑖 = 𝛽0 + 𝛽𝑝𝑎𝑟𝑖𝑡𝑦 + 𝑓1,𝑝𝑎𝑟𝑖𝑡𝑦 𝑖 𝑖 SCS𝑖 , D𝑆𝐶𝐶𝑖 + 𝐷𝐼𝑀𝑖 + 𝑓3 𝐷𝑜𝑌𝑖 + 𝒇𝟒 𝑻𝒆𝒎𝒑𝒊 + 𝛾ℎ𝑒𝑟𝑑 + 𝛾𝑐𝑜𝑤 閾値 ≈ 16℃ *牛5000頭のデータ 第 4 章: 牛乳房炎における重症度と 原因菌による特異的な免疫応答 Severity & Pathogen Dependent Immune Responses in Mastitis 41 白血球数(106/mL) 原因菌に対する 特異的な免疫応答 (2004 Bannermanら) IL8 (pg/mL) TNFa (pg/mL) 体温(℃) 背景 接種後時間(時) 接種後時間(時) 乳房炎重症度による 特異的な免疫応答 背景 * * * * * IL1β(U/mL) * TNFα (U/mL) 大腸菌乳房炎 42 (2001 大塚ら) 材料方法 原因菌、重症度による 特異的な免疫応答の調査 調査方法: 乳房炎の原因菌、重症度を特定し、発生当日、3、 5、7、14、21日後に各免疫指標を測定 試験農場:本学畜産フィールド科学センター 試験期間:2021年6月~2022年2月 供試動物:ホルスタイン種泌乳牛38頭 乳房炎49症例 調査項目: 乳房炎原因菌、重症度 血液A/G比、白血球数 乳中体細胞数 軽度 中度 重度 重症度の区分 異常乳 乳房腫脹 全身症状(発熱など) (2011 Pinzón-SánchezとRuegg) 43 材料方法 44 原因菌の同定 有意な 発育がない No significant Growth (NG) ウベリスレンサ 球菌同定キット Other Streptococcus (OS) API 20 Strep® Streptococcus uberis (SU) Streptococcus dysgalactiae (SD) 45 材料方法 分析方法 目的:乳房炎原因菌、重症度による免疫応答の経時 的変化を調査する • リニアスコア、白血球数、AG比: 原因菌 重症度 経過日数 原因菌と経過日数 𝑌𝑖𝑗𝑘𝑙𝑚 = 𝛽0 + 𝛽1 𝑃𝑎𝑡ℎ𝑘 + 𝛽2 𝑆𝑒𝑣𝑚 + 𝛽3 𝑇𝑖𝑚𝑒𝑙 + 𝛽4 𝑃𝑎𝑡ℎ𝑘 × 𝑇𝑖𝑚𝑒𝑙 + 𝛽5 𝑆𝑒𝑣𝑚 × 𝑇𝑖𝑚𝑒𝑙 + 𝛽6 𝐷𝐼𝑀𝑖 + 𝛽7 𝐷𝐼𝑀𝑖2 + 𝛽8 𝑃𝑎𝑟𝑖𝑡𝑦𝑖𝑗 + 𝛾𝑗 重症度と経過日数 結果 46 リニアスコアの変化 原因菌別 重症度別 P =0.023 重症度 リニアスコア 原因菌 P =0.05 乳房炎発生日数 軽度 中度 重度 47 白血球数の変化(原因菌別) WBC(100 cells/mL)± 95%CI 結果 乳房炎発生日数 考察 原因菌に対する 特異的な免疫応答 白血球数の変化:GNR>Strep.>SA、CNS 2004 Bannermanら: - 大腸菌: LPSで炎症性サイトカインが上昇 → 白血球が乳房に移行、血中白血球低下 - SA:サイトカインの上昇が不顕著 48 49 結果 A/G比(重症度別) *各時間点の平均は発生日の平均と比較し、Dunnett法でP値を調整 A/G比± 95%CI 軽度 中度 比較 乳房炎発生日数 重度 考察 重症度による 特異的な免疫応答 A/G比:重度乳房炎における低下が激しい - 炎症によるグロブリンの産生 - 乳腺損傷によるアルブミンが乳中に滲出 - 生産性との関係: 乾乳前A/G比が低い牛、次乳期乳量は低い (2021 Cattaneoら) 50 結論 乳房炎原因菌と重症度を 特定する重要性 免疫応答は乳房炎の原因菌と重症度により異なり、 治療の方針もそれに応じて変えるべき 例:大腸菌 → 急性炎症反応 → 敗血症の恐れ → 急性期の対症治療 SA → 弱い炎症反応 → 潜在的継続感染 → 治療後治癒の判定 免疫応答の調節により、抗菌性物質の管理と乳生産 の効率を改善 → キトサンに着目 51 第 5 章: キトサンの免疫調節機能による 新たな乳房炎対策の検討 Modulate Immune Responses in Mastitis by Chitosan 53 背景 先行研究 乳房炎発生の翌日から、低分子キトサン10g、3日間経口投与 CHI (n=15) (ng/L) 34 190 28 150 110 22 70 16 30 10 IL12 9.0ab ab b 13.5 x xy x y a 7.5 12.0 6.0 x xy x 10.5 yz 4.5 Group: Group: ns ns CRP 46 270 40 230 CON (n=15) (ng/L) 245 270 210 230 ab y 190 175 105 110 70 1 2 3.0 3 4 5 6 7 30 35 0.0 IL4 x xy b ab ab yz z a 140 150 z 1.5 CHI (n=15) xy x x yz Group:ns ns Group: Globulin (g/dL) 5.0 ab z Globulin =15) 4.5 b b 4.0 3.5 3.0 z 2.5 1 2 3 4 5 6 7 a 2.0 Group: ns 1 2 3 4 5 6 7 乳房炎経過日数 Mean±SD; a,b: キトサン群内P<0.05; x-z: 対照群内P<0.05 1 2 3 4 5 6 7 (Pan, 2021) 背景 13 キトサンの効果 細胞性免疫 IL12 キラーT (CD8+) ヘルパーT (CD4+) 液性免疫 IL4 Igs ↑ B細胞 キトサンによる 新たな乳房炎対策 背景 SDCTに伴う 乳腺感染増加 55 臨床型乳房炎 の再発 抗菌性物質以外の乳房炎対策が必要 試験A 乾乳期乳腺 感染の予防 キトサンの 免疫賦活効果 試験B 臨床型乳房炎 再発の防止 5ーA : キトサンによる 乾乳期乳腺感染の予防 Prevent Dry Period IMI by Chitosan A.材料方法 キトサンの乾乳期 乳腺感染の予防効果の調査 試験農場:本学畜産フィールド科学センター 試験期間:2021年6月から2022年6月 供試動物:ホルスタイン種経産牛21頭 (対象10頭、投与11頭) 投与条件:乾乳前の乳汁培養検査で全分房陰性 投与試料: 投与群:50-200kDa キトサン10g+米ぬか30g 対照群:米ぬか30g 57 58 A.材料方法 試験の流れ 採血 3日間投与 D-4 D-2 乾乳日 (D0) 乳汁培養検査 1wk 2wk 4wk 分娩予定 2週間前 分 娩 調査項目 フィールド調査:衛生スコア(乳房後面)、ティトナー付着日数 臨床効果:乾乳期乳腺感染の発生 免疫動態:血中IL4, IL6, IL10, IL12, IFNγ濃度とA/G比 A.材料方法 59 分析方法 目的:衛生スコアとティトナー付着日数の影響 を配慮しつつ、投与の効果を調べる • 乾乳期乳腺感染の変化(式1): 𝑙𝑜𝑔𝑖𝑡ሺ𝐼𝑛𝑓𝑖𝑗𝑘𝑙 ቁ = 𝛽0 + 𝛽1 𝐺𝑟𝑜𝑢𝑝𝑘 + 𝛽2 𝐻𝑦𝑔𝑖𝑒𝑛𝑒𝑙 + 𝛽3 𝑆𝑒𝑎𝑙𝑎𝑛𝑡𝑖 + 𝛾𝑗 , • A/G比、サイトカイン濃度(式2): 𝑌𝑖𝑗𝑘 = 𝛽0 + 𝛽1 𝐺𝑟𝑜𝑢𝑝𝑘 + 𝛽2 𝑇𝑖𝑚𝑒𝑖 + 𝛽3 𝐺𝑟𝑜𝑢𝑝𝑘 × 𝑇𝑖𝑚𝑒𝑖 + 𝛾𝑗 , 乳腺感染率を影響する要因 Estimate -2.81 -0.38 0.04 0.69 感染率 感染率 (Intercept) 投与 ティトナー 衛生スコア 投与状況 SE 1.40 0.53 0.07 0.40 P value 0.48 0.59 0.09 感染率 A.結果 60 ティトナー 付着日数 衛生スコア (予測±95%CI) A.結果 61 血中サイトカイン濃度とAG比 (平均±95%CI) 分娩前 乾乳前 分娩前 乾乳前 分娩前 乾乳前 分娩前 乾乳前 A/G比 乾乳前 分娩前 5ーB : キトサンによる 臨床型乳房炎再発の予防 Prevent Clinical Mastitis Recurrence by Chitosan B.材料方法 キトサンの乳房炎再発の 予防効果の調査 試験農場: 本学畜産フィールド科学センター 試験期間: 2021年6月~2022年2月 供試動物:ホルスタイン種泌乳牛38頭 乳房炎49症例 (投与:22症例、対照:27症例) 投与条件: 同じ原因菌の乳房炎が発生した乳牛2頭を 1頭投与群、1頭対照群にペアリング 投与試料: 投与群:50-200kDaキトサン10g+米ぬか30g 対照群:米ぬか30g 63 64 B.材料方法 乳 房 D0 炎 後 日 数 試験の流れと調査項目 乳房炎再発の監視 5日間投与 D3 D5 D7 D14 D21 乳汁と血液の採取 調査項目: 臨床効果:細菌学的治癒率、再発までの時間 血液:A/G比、白血球数 乳汁:TNFα, IL1b, IL4, IL6, IL10, IL12, IFNγ,体細胞数 B.材料方法 65 分析方法 目的:乳房炎原因菌、重症度の影響を考慮しつつ、 投与の効果を調査 • 細菌学的な治癒率: 𝑙𝑜𝑔𝑖𝑡 𝐶𝑢𝑟𝑒𝑖𝑗𝑘 = 𝛽0 + 𝛽1 𝐺𝑟𝑜𝑢𝑝𝑗 + 𝛽2 𝑃𝑎𝑡ℎ𝑜𝑔𝑒𝑛𝑘 , • 体細胞数、白血球数、AG比、サイトカイン: 𝑌𝑖𝑗𝑘𝑙𝑚𝑛 = 𝛽0 + 𝛽1 𝑃𝑎𝑡ℎ𝑜𝑔𝑒𝑛𝑘 + 𝛽2 𝑆𝑒𝑣𝑒𝑟𝑖𝑡𝑦𝑙 + 𝛽3 𝐺𝑟𝑜𝑢𝑝𝑚 + 𝛽4 𝑇𝑖𝑚𝑒𝑛 + 𝛽5 𝑃𝑎𝑡ℎ𝑜𝑔𝑒𝑛𝑘 × 𝑇𝑖𝑚𝑒𝑛 + 𝛽6 𝑆𝑒𝑣𝑒𝑟𝑖𝑡𝑦𝑙 × 𝑇𝑖𝑚𝑒𝑛 + 𝛽7 𝐺𝑟𝑜𝑢𝑝𝑚 × 𝑇𝑖𝑚𝑒𝑛 + 𝛾𝑗 , • 再発までの時間: ℎ 𝑡 = ℎ0 𝑡 × exp 𝛽1 𝐺𝑟𝑜𝑢𝑝𝑗 + 𝛽2 𝑃𝑎𝑡ℎ𝑜𝑔𝑒𝑛𝑘 , 66 B.結果 治癒率を影響する要因 P値 0.57 Major原因菌 12.43 0.01 治癒率 投与 OR 1.77 対照 投与 対照 投与 B.結果 67 再発に対する生存分析 生存(再発しない)率 投与 CNS 対照 CNS 投与 Major 対照 Major 投与 OR = 0.91 (CI :0.26-3.21) P = 0.88 主要原因菌 OR = 0.33 (CI: 0.09-1.18) P = 0.09 乳房炎発生後日数 B.結果 68 SCS、DSCC、白血球数、AG比 WBC (100cells/mL) (平均±95%CI) 乳房炎発生後日数 B.結果 69 乳中サイトカインの変化 (平均±95%CI) 乳房炎発生後日数 考察 70 効果が見られなかった原因 投与量、投与時間: 投与時間 投与量 効果 実験A 3日 10 g/d 無 実験B 5日 10 g/d 無 2021 Zheng ら 56日 0.5 - 2g/kg (採食量) IL-1, NF-κB↓ 分子量(本試験50-200 kDa) : 30 kDa以上は水溶性が低く生体利用率が低い(2005 KimとRajapakse) 結論 71 キトサンの免疫調節機能 • キトサンの免疫調節機能は見られなかった • 投与量、投与時間、分子量が原因 ? 総合考察 General discussion 本研究の結果による 乳房炎対策の提案 総合考察 臨床型乳房炎 研究④ 原因菌、 重症度別治療 乾乳期治療 研究① 乳頭保護、 衛生の改善 SDCT 実施 研究② 延長治療 回避 抗菌性物質 使用低減 73 潜在性慢性感染 研究② CMT変法、 DSCCで摘発 再発、重症 の防止 研究③ 感染牛の淘汰、 早期乾乳 生産性 向上 74 総合考察 将来展望 乳量(kg/d) DSCC(%) 3産以上 早期 治療 淘汰 リニアスコア (SCS) 75 結論 本研究で明らかになった知見に基づき 乳房炎対策を立てることは、 抗菌性物質の管理および 乳生産の向上に役立てると考える 76 投稿(予定)論文および学会発表 投稿(予定)論文 Huang, C. H., I. Fujiwara, and N. Kusaba. 2022. Effect of selective dry cow therapy on dry period intramammary infection dynamics and their association with management factors in Japan. Anim. Sci. J. 93. https://doi.org/10.1111/asj.13718. Huang, C. H. and N. Kusaba. 2022. Association between differential somatic cell count and California Mastitis Test results in Holstein cattle. JDS Communication 3:441 - 445. https://doi.org/10.3168/jdsc.2022-0249. Huang, C. H., K. Furukawa, and N. Kusaba. Estimating the nonlinear interaction between somatic cell score and differential somatic cell count on milk production by parity using generalized additive models. Manuscript (submitted to Journal of Dairy Science, under major revision). Huang, C. H., M. Kayano, and N. Kusaba. Pathogen and severity-dependent immune responses in bovine mastitis: highlight the dynamics of differential somatic cell count. Manuscript. 学会発表 黃哲璿、藤原郁歩、草場信之、乳牛に対する選択的乾乳期治療における乳腺感染 の消長と感染予防効果に影響するリスク因子、十勝獣医師会、帯広、2022年6月 黃哲璿、草場信之、牛乳房炎における乳中体細胞組成の変化がCMT変法の結果 に与える影響、第165回日本獣医学会学術集会、麻布、2022年9月 77 謝辞 主指導の草場先生、 副指導の宮本先生、川島先生および茅野先生 ご指導、誠にありがとうございました 研究室の学生さん、 FSCの職員さん、うしぶ。の皆さん ご協力に感謝申し上げます 78