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Development of an Analytical System for Ion Channe

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Development of an Analytical System for Ion Channel Proteins Based on
Artificial Bilayer Lipid Membranes —Screening of Drug Components that
Haveing Side Effects on hERG Channels fo...
Article in Bunseki Kagaku · December 2018
DOI: 10.2116/bunsekikagaku.67.749
CITATION
READS
1
199
4 authors, including:
Teng Ma
Daisuke Tadaki
Tohoku University
Tohoku University
54 PUBLICATIONS 340 CITATIONS
49 PUBLICATIONS 333 CITATIONS
SEE PROFILE
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Basics and Applications of Nanobubble View project
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SEE PROFILE
BUNSEKI KAGAKU Vol. 67, No. 12, pp. 749–760(2018)
© 2018 The Japan Society for Analytical Chemistry
749
年間特集「膜」: 総合論文
人工細胞膜を用いたイオンチャネルタンパク質解析系の開発
─個別化医療のための hERG チャネル薬物副作用評価を目指して─
小宮
*1
麻希 ,馬
騰 ,但木
2
大介 ,平野
1
愛弓
1,2
心筋細胞の細胞膜中に多く存在するカリウムイオンチャネル hERG の機能阻害は,QT 延長症や不整脈な
ど命にかかわるような心疾患の発症と関連している.hERG チャネルの阻害は先天的な遺伝子異常だけでは
なく,薬剤による副作用によっても引き起こされる.hERG チャネルの遺伝子型によって薬剤化合物との反
応性は異なり,各々の患者に対して安全な薬を処方するためにはその患者の hERG 遺伝子型に応じて副作用
を引き起こさない薬剤の選択(個別化医療)が必要とされる.著者らは,各遺伝子型に応じ hERG チャネル
を阻害する薬剤化合物の網羅的・包括的な同定法の開発を目指し,人工細胞膜を用いたイオンチャネルの解
析系の開発に努めてきた.従来,人工細胞膜系においては,その膜の脆弱性や膜へのイオンチャネルの包埋
率の低さなどが大きな課題となっていた.著者らはこれらの諸問題に対し,様々なアプローチをとることで
解決を図ってきた.本論文では,著者らが開発している人工細胞膜を用いたイオンチャネルの解析系と上述
の諸問題に対するアプローチについて最新の研究成果を中心に紹介したい.
1
チャネルは心筋細胞に多く存在する電位依存型カリウムイ
はじめに
オンチャネルである.しかし,hERG チャネルは薬物反応
生物の体を構成する細胞はリン脂質二重層を主骨格とす
性が高く,抗ヒスタミン剤等の一般的に使用される薬剤を
る細胞膜によって覆われている.リン脂質は親水性の頭部
含む様々な医薬品と副作用的に反応し,心電図異常(QT
と疎水性の尾部を持った両親媒性の性質を有し,疎水部同
延長症候群)や深刻な不整脈を誘発する
士が会合した形でリン脂質二重膜が形成される.リン脂質
hERG チャネルに対する心毒性の問題が重要視されるよう
二重膜は細胞の内外を隔てる境界であり,イオンを通さな
になり,2009 年には安全性薬理試験の国際的ガイドライン
い絶縁膜としての特性を持つ.この絶縁膜中にイオンが透
ICHS7B が通達され,すべての候補医薬品に対し,チャネ
.このような
3)4)12)
13)
過できる通り道を形成しているのが,イオンチャネルと呼
ル電流記録に基づく薬物副作用評価が必須となった.一
ばれる膜タンパク質である.イオンチャネルはゲート機能
方,副作用を及ぼす医薬品等との反応性は hERG 遺伝子型
をもち,これによりイオンの流入・流出量を調節してい
(野生型・変異型)によっても異なることが示唆されるよ
,副作用を起こすことなく患者に安全に薬
る.神経細胞や筋細胞などにおいては,これらのイオン流
うになり
出入により,活動電位と呼ばれる膜電位変化が発生する.
を投与するためには患者ごとの hERG チャネルの遺伝子型
心臓においては,活動電位の適切な伝搬により,筋収縮や
に合わせた薬剤の選択(個別化医療)が重要となってくる.
心拍動などの機能が正常に保たれる.しかし,何らかの理
従来,イオンチャネルの解析手法としてはパッチクラン
5)6)9)12)
.パッチクランプ法では,標的
由によりイオンチャネルの開閉機構に異常が生じると,心
プ法が用いられてきた
臓の拍動が不規則になる不整脈状態を引き起こす.イオン
とするイオンチャネルを発現した細胞の膜表面に微小電極
チャネルの開閉異常をもたらす原因としては , イオンチャ
を密着させることで,イオンチャネルの活動を電流値の変
ネルの先天的な遺伝子異常だけではなく,薬剤などによる
化として検出する.しかし,この手法では細胞をサンプル
予期せぬ副作用が挙げられる.イオンチャネルの中でも特
とするため,観測されるチャネル電流が細胞の状態や共存
に副作用の観点から着目されているのが,human ether-a-
する他の膜タンパク質の影響を受けてしまう可能性があ
go-go related gene(hERG) チ ャ ネ ル で あ る
*
1
2
1)〜12)
.hERG
E-mail : maki.komiya.c7@tohoku.ac.jp
東北大学電気通信研究所 : 980-8577 宮城県仙台市青葉区片平
2-1-1
東北大学材料科学高等研究所 : 980-8577 宮城県仙台市青葉区
片平 2-1-1
14)15)
る.さらに,将来の個別化医療への展開性を考えた場合,
第一候補となる iPS 心筋細胞には幼若性の問題があり,そ
の克服が課題となっている .一方,人工的に形成したリ
16)
ン脂質二重膜に,単離した標的イオンチャネルを組み込ん
だ人工細胞膜は,パッチクランプ法に相補的な手法として
750
BUNSEKI
Fig. 1
Vol. 67 (2018)
KAGAKU
Fabrication of microapertures in Si chips
(a) Procedure for fabricating Si chips with microapertures. (b) Schematic of fabricated Si chips. (top)
Top view from the Si3N4 side, (middle) a cross-sectional view, (bottom) bottom view from the Si side.
Reprinted from Tadaki, D. et al. (2017) Scientific Reports 7, 17736.
開発されてきた
17)
〜21)
.脂質成分やバッファー組成等の実
を中心に紹介したい.
験条件の制御がしやすいという人工系ならではの特徴に加
2
え,単一チャネル電流の記録に適しているといった利点が
実
験
系
ある.さらに,近年急速に進歩している無細胞合成系との
2・1
結合性も高く,合成したイオンチャネル変異型と組み合わ
半導体微細加工技術を用いて,微小孔(20 〜 45 μm)を
せ可能な次世代型チャネル機能評価系としての期待も高
脂質二重膜形成場となる微小孔の作製
23)〜25)
有するシリコン(Si)チップを作製した
.Fig. 1 に,
い.しかし,脂質二重膜は生体膜に比べ脆弱であり,イオ
その加工プロセスを示す.始めに,Si3N4 を片面に堆積し
ンチャネルの包埋が困難といった問題点が存在する.さら
た,厚さ約 200 μm の Si 基板の両面を熱酸化及びスパッタ
に,膜形成には有機溶剤を使用しており,感受性の高いイ
装置によって SiO2 で被覆し,Si 側からフォトリソグラ
オンチャネルに対する有機溶剤の影響が危惧されてい
フィー及び異方性エッチングを行い,Fig. 1a(4)のような
17)
窪み構造を形成した.剥き出し状態となった Si3N4 面を再
著者らは,薬剤による hERG チャネルへの副作用リスク
びスパッタ装置によって SiO2 で被覆したのち,フォトリソ
を検出する人工細胞膜センサーの開発を行ってきた .そ
グラフィーによるパターニング後,Si3N4 側から等方性
の研究の中で,従来の脂質二重膜の脆弱性,及びイオン
エッチングを行うことで 20 〜 45 μm の円状の孔を作製し
チャネルの低包埋率の問題点を克服すべく,脂質二重膜と
た.孔の下にある SiO2 層を除去し,テーパー構造を有する
半導体微細加工技術との融合や,新しい包埋方法の開発に
微細孔を形成した(Fig. 1a(8)).さらに,ノイズ減少層と
努めてきた.さらに,膜形成に有機溶剤を使用しない sol-
して SiO2 層とフッ素樹脂層を導入した.フッ素樹脂層とし
vent-free な脂質二重膜系の構築や,無細胞合成イオンチャ
ては,以前はテフロン - AF を用いたこともあったが,最近
ネルとの結合にも着手し,hERG チャネルの野生型・変異
は,より作製再現性の高い CYTOP を用いている.始めに
型に応じて薬剤化合物との応答性を包括的に評価するため
ウェット熱酸化による熱酸化層を形成したのち,Si 側から
のスクリーニング系への展開も試みている.本論文では,
CYTOP コートを行い,余分な CYTOP を Si3N4 側から酸
これらの研究について,特に,ナノ・マイクロ構造の制御
素プラズマを照射して除去した.最後に Si3N4 側から SiO2
により脂質二重膜の脆弱性を克服した試みや,hERG チャ
スパッタリングを行い,SiO2 薄膜を積層した.作製した Si
ネル薬物副作用評価系に応用した試みについて最近の結果
チップの表面を,シランカップリング剤を用いて疎水化し
た .
22)
®
®
®
総合論文
小宮,馬,但木,平野 : 人工細胞膜を用いたイオンチャネルタンパク質解析系の開発─個別化医療のための hERG チャネル薬物副作用評価を目指して─
751
Fig. 2 (a) Schematic of a bilayer lipid membranes (BLM) formed across a
microaperture in an Si chip (not drawn to scale). (b) Schematic diagram of the
fusion of a proteoliposome to a BLM.
たのち,脂質二重膜形成に用いた.
裏打ちタンパク質等によって構造を支えられている生体膜
とは異なり,脂質分子のみから成る脂質二重膜は非常に脆
2・2
Solvent-free の脂質二重膜の形成法
脂質二重膜形成の実験系の模式図を Fig. 2 に示す.測定容
弱で壊れやすい.2000 年以降,この脂質二重膜の不安定性
26)〜28)
を改善すべく微細加工技術が取り入れられてきた
.
器は,2 つのパーツから成るテフロン製のチャンバーで,その
脂質二重膜の形成場である小孔の大きさをサブ μm まで微
真ん中に上述の Si チップを挟んでいる.脂質二重膜は,単分
小化することで,膜の安定性の向上を図ったのである.し
子膜貼り合わせ法によって形成した.始めに,Si チップより
かし,膜の面積を減少させることはイオンチャネルの包埋
も低 い 位 置まで バッファーを添 加し,水 面に 脂 質 溶 液
確率をも下げてしまう.そこで著者らは,膜の面積を減少
(L-α-phosphatidylcholine : L-α-phosphatidylethanolamine :
させることなく膜を安定化させるため,膜の形成場となる
Cholesterol=7 : 1 : 2)を滴下した.両親媒性であるリン脂
膜保持体の縁部の形状に着目した.従来の膜保持体は μm
質は,親水性の頭部を水面下に,疎水性の尾部を空気中に
オーダーの厚さをもち,厚さ数 nm の脂質二重膜との間に
向けるように水面に並ぶ.バッファーの添加によりこの水
大きなスケールミスマッチが存在する(Fig. 3).このミス
面をゆっくりと上昇させると,Si チップ中央の微小孔にお
マッチにより,脂質二重膜と膜保持体の接合部分には,向
いてリン脂質の単層同士が会合してリン脂質二重膜が形成
かい合う脂質単層同士の間に空隙ができ,歪みを持った不
される(Fig. 2a).イオンチャネルの包埋は,あらかじめ形
安定な構造をとると考えられる.この空隙を埋めるため,
成した脂質二重膜に対し,標的とするイオンチャネルを含
従来の脂質二重膜の形成においては n-Decane や n -Hexa-
んだ膜小胞(プロテオリポソーム)を膜融合させることで
decane 等の有機溶剤が用いられてきたが,依然として膜安
行った(Fig. 2b).構築した人工細胞膜の両側のバッファー
定性は極めて低かった.この不安定性を解消するべく,著
中に Ag/AgCl 電極を配置し,電極間に電圧を印加し,チャ
ネル開口による電流値の変化を検出した.
3
3・1
結
果
安定化脂質二重膜の形成
3・1・1
ナ ノ・ マ イ ク ロ 構 造 と 脂 質 二 重 膜 の 安 定 性
者らは半導体微細加工技術を用いて,縁部がとがった形状
(テーパー構造)となるような微小孔を Si チップ中に形成
した
.作製した Si チップ(Fig. 1a(8)の時点におけ
23)25)
るチップ)の表面を疎水化し,脂質二重膜を形成し,その
膜の安定性について評価を行った.その結果,微細孔縁部
に少量の有機溶剤である n-Hexadecane を塗布した場合に
752
BUNSEKI
KAGAKU
Vol. 67 (2018)
は 92 %(n=53)の膜形成確率,及びバッファー交換に対
質二重膜の出現が望まれていた.著者らは,上述の Si チッ
する耐性と 40 時間を超える膜の寿命を得ることができた.
プの Si 側に,熱酸化層及びフッ素樹脂層による被覆層を追
しかし,n-Hexadecane を塗布しない場合には,約 31 %
(12)
),solvent-free の脂質
加することにより(Fig. 1a(9)
(n=13)の低確率でしか脂質二重膜を形成することができ
二重膜形成確率が著しく向上することを見いだした .こ
なかった .
22)
れらの被覆層は,当初は,電流ノイズを抑制するための低
23)
脂質二重膜の形成には,従来から有機溶剤が必要とされ
誘電率材料層として導入したものであるが,後に solvent-
,体内には存在しない有機溶剤の添加によりイ
free 脂質二重膜の形成にも有用であることが判明した.さ
オンチャネル機能が損なわれる可能性も無視できず,有機
らに,微小孔作製の各工程を精査した結果,Fig. 1a(6)に
溶剤を使用しない solvent-free 脂質二重膜の形成法として,
おける SiO2 のエッチング工程が,微小孔テーパー構造の形
てきたが
17)
tip-dip 法 やリポソームパッチ法 ,リポソーム破裂法
状に大きな影響を及ぼすことが分かった.そこで著者ら
等 が提案されてきた.しかし,いずれの方法も形成され
は,この SiO2 エッチング条件を変えることにより,Fig. 4
た脂質二重膜の安定性は低く,安定性の高い solvent-free 脂
に示すような 3 種類の縁部ナノ・マイクロ形状をもつ微小
29)
30)
31)
孔を形成し,この 3 種類の微小孔中での脂質二重膜形成を
試み,膜形成能及び膜安定性を評価した .膜安定性の基
25)
準としては,機械的な力(遠心力)を加えた場合の耐性力
(項目 3・2 と関連),バッファーの吸入・注入の繰り返し操
作に対する耐性力(バッファー交換能),1 V の電圧を印加
した際の耐性力,そして脂質二重膜の寿命の長さに焦点を
当てた.Table 1 に,これらの基準に基づいて評価した脂
質二重膜の安定性を示す.脂質二重膜の形成確率,遠心力
に対する耐性力,バッファーの吸入・注入の繰り返し操作
に対する耐性力において(a)の形状が最も高く,また,最
Fig. 3 Schematic of contact between a BLM and a
Teflon film
長の膜寿命を示すことが分かる.一方,(a)とほぼ同様の
ナノテーパー構造をもつ(c)においては,膜形成確率,膜
Fig. 4 Schematic illustration of tapered-edge structures of Apertures A-C based on the FE-SEM
and laser scanning confocal microscopic images
Reprinted with modification from Tadaki, D. et al. (2017) Scientific Reports 7, 17736.
総合論文
小宮,馬,但木,平野 : 人工細胞膜を用いたイオンチャネルタンパク質解析系の開発─個別化医療のための hERG チャネル薬物副作用評価を目指して─
Table 1
Aperture
type
Probability of
BLM formation
(a)
(b)
(c)
85 % (n = 48)
58 % (n = 36)
59 % (n = 44)
753
Stability of Solvent-free BLMs Formed in Apertures (a)-(c)
Probability of tolerance
centrifugal force
45 % (n = 11)
0 % (n = 8)
20 % (n = 10)
b)
aspiration cycles
c)
75 % (n = 12)
20 % (n = 10)
20 % (n = 10)
a)
Lifetime
applied voltage
d)
100 % (n = 13)
100 % (n = 5)
100 % (n = 4)
average
e)
Maximum
9.8±3.1 h (n = 13)
4.9±2.3 h (n = 5)
3.5±1.8 h (n = 4)
f)
46 h
20 days
28 h
The mechanical and static stability of solvent-free BLMs formed in Apertures (a)-(c), together with the probability of BLM
formation. a) Probability of BLMs maintaining a membrane resistance higher than 100 GΩ after centrifuging, aspiration cycles,
and high voltages. Only BLMs whose resistance at 10 min after their formation was higher than 100 GΩ were evaluated. The
diameter of the apertures was in the range from 20 to 30 μm. b) Conditions for centrifugation: 55×g for 10 minutes. c)
Number of aspiration cycles: twenty. d) A square voltage waveform was applied as follows. Applied potential was first switched
from 0 to +1 V and held at +1 V for 0.5-1 min, and the potential was then switched to -1 V and held at -1 V for 0.5-1 min. Finally,
the potential was set back to 0 V. e) Lifetime was defined as the duration for which the membrane resistance was higher than 100
GΩ. f) These maximum values were not included in the calculation of the average. Reprinted from Tadaki, D. et al. (2017)
Scientific Reports 7, 17736.
Table 2
Surface Characterization of Modified Substrates and Diffusion Coefficients of Lipid
Monolayers Formed on the Substrates a)
surface modification
PFDS
OTS
PFDDS
FPDS
PFTS
CPDS
water contact
angle (deg)
107±2
113±1
109±1
90±1
116±1
74±1
n-hexadecane
contact angle (deg)
surface roughness
RMS (nm)
diffusion coefficient
(μm2/s)
63±2
36±1
65±3
40±1
78±1
12±1
0.47±0.22
0.39±0.10
0.65±0.15
0.53±0.11
1.30±0.02
0.36±0.11
1.74±0.43
b)
1.50±0.45
1.48±0.28
0.94±0.16
0.92±0.13
0.67±0.28
a) Number of trials is 5 except for the measurement of lipid diffusion coefficient on the OTS modified substrate.
b) Number of trials is 9. Abbreviation) PFDS: (Tridecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrooctyl)dimethylchlorosilane, OTS:
Octadecyltrichlorosilane, PFDDS: (heptadecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrodecyl)-dimethylchlorosilane, FPDS:
3,3,3-trifluoropropyl-dimethylchlorosilane, PFTS: (tridecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrooctyl)-trichlorosilane, CPDS:
3-cyanopropyldimethylchlorosilane. Reprinted from Yamaura, D. et al. (2018) Langmuir 34, 5615-5622.
Copyright 2018 American Chemical Society.
安定性ともに(a)の微小孔に比べて著しく低く,微細孔縁
性に着目した.疎水性・疎油性に関しては,それぞれ水と
部の形状がナノメートルオーダーのテーパー構造のみなら
n-Hexadecane(脂質の疎水部のモデルとして使用)をシラ
ず,マイクロメートルのオーダーで緩い勾配を持つこと
ン化した Si チップ表面に滴下し,表面と滴の接触角を計測
が,安定した脂質二重膜を形成する上で最も適切であるこ
することで評価した.表面の粗さについては,原子間力顕
とが明らかとなった.すなわち,安定した脂質二重膜を形
微鏡(AFM)を用いて測定した.脂質分子の流動性につい
成することのできる微小孔の形状を明らかにし,その作製
ては,蛍光脂質を混合した脂質単分子層を基板上に形成
プロセスを確立することに成功した.
し,その蛍光褪色後回復(Fluorecemce recovery after pho-
3・1・2
Si チップ表面修飾に基づく脂質二重膜の安定化
tobleaching, FRAP)過程を解析することにより拡散係数と
膜面積を減少させることなく膜安定性の向上を図る方法の
して定量した .これらの基準の下,各シラン化表面の評
もう一つのアプローチとして,著者らは Si チップ表面の表
価を行った結果を Table 2 にまとめる.PFDS,PFDDS 等
面処理に着目した .シラン化処理は Si チップ表面を疎水
の長鎖フルオロカーボン系のシランカップリング剤を用い
化するために必要であり,リン脂質の疎水部との相互作用
た場合では,水,n-Hexadecane ともに接触角が大きく,脂
に大きく関与している.そのため,使用するシラン化剤が,
質単分子層の拡散係数も大きくなった.FPDS,CPDS を用
脂質二重膜の形成や安定性にも影響を与えるのではないか
いた場合では水,n -Hexadecane ともに接触角が小さく,拡
と考えた.そこで著者らは,従来から使用されてきた
散係数の値も小さかった.PFTS の場合は,水,n -Hexadec-
CPDS に 加 え, 他 の シ ラ ン 化 剤 PFDS,OTS,PFDDS,
ane ともに接触角は大きかったものの,凝集体の形成によ
FPDS,PFTS,CPDS を用いてシラン化を行い,その修飾表
り表面粗さも最も大きくなり,拡散係数の値は小さくなっ
面を評価した.評価の基準としては,疎水性,疎油性,表
た.これらの結果から,基板表面の疎水性・疎油性・表面
面の粗さ,そして基板上に形成される脂質単分子層の流動
粗さがその上に形成した脂質単分子層の流動性に影響を与
32)
33)
754
BUNSEKI
Table 3
Vol. 67 (2018)
KAGAKU
Mechanical Stability of the BLMs Formed on Modified Si Chips a)
surface
modification
probability of BLM
formation (%)
lifetime (h)
tolerance to
b)
ACs
tolerance to CF without
proteoliposomes c)
tolerance to CF with
proteoliposomes d)
PFDS
CPDS
86 (42/49)
47 (30/64)
15.5±13.1 (n = 7)
16.8±10.8 (n = 9)
75 % (9/12)
50 % (3/6)
100 % (11/11)
50 % (5/10)
71 % (12/17)
43 % (3/7)
a) Stability of BLMs formed in the PFDS- or CPDS-modified Si chips. The survival probability was calculated by dividing the
number of BLMs whose resistance remained over 1 GΩ after the tolerance test by the number of BLMs whose resistance was in
excess of 100 GΩ before the tolerance test. b) Number of aspiration cycles (ACs): 20. c) Condition of centrifugation force (CF):
55×g for 10 min. d) Condition of CF: 40×g for 10 min with proteoliposomes. Reprinted with modification from Yamaura, D.
et al. (2018) Langmuir 34, 5615-5622. Copyright 2018 American Chemical Society.
を形成することにより,チップ内の脂質二重膜の安定性を
向上できることを見いだした.
3・2
遠心力による脂質二重膜へのイオンチャネルの包
埋促進
脂質二重膜にイオンチャネルを再構成した人工細胞膜系
の構築において,もう一つのキーステップとなるのが,膜
中へのイオンチャネルの包埋過程である.通常,イオン
チャネルは発現細胞等から抽出され,脂質分子に包まれた
脂質ベシクル(プロテオリポソーム)の状態で抽出される.
人工細胞膜を形成する際には,プロテオリポソームと脂質
二重膜との膜融合によって,イオンチャネルは脂質二重膜
中に包埋される(Fig. 2b) .しかし,この膜融合確率は低
17)
く,従来の方法,すなわち塩濃度勾配による浸透圧の付加
や撹拌による方法では,イオンチャネルを膜中に包埋する
Fig. 5 Single hERG channel currents recorded at an
applied potential of -100 mV
(a) Before addition of E-4031 (control). (b) After
addition of E-4031. The final concentration of
E-4031 was 200 μM. Reprinted from Oshima, A. et
al. (2013) Analytical Chemistry 85, 4363-4369. Copy
right 2013 American Chemical Society.
ことは困難であった.著者らも,hERG チャネル安定発現
株から抽出したプロテオリポソームとの膜融合により,
Fig. 5 に見られるような hERG チャネルの単一チャネル電
流,及び hERG チャネル特異的阻害薬 E-4031 による hERG
チャネル電流の抑制の記録に成功しているものの,その成
功確率は約 6 % と極めて低かった
.
24)34)
一方,脂質二重膜とプロテオリポソームとの膜融合は,
えることが示唆された.次に,脂質分子の拡散係数の数値
生体膜における小胞輸送モデル系でもあり,その膜融合過
が最も高かった PFDS と,逆に最も低かった CPDS を用い
程は,生物科学の観点からも注目されていた.Chanturiya
てシラン化処理を行った Si チップを用いて脂質二重膜を
らは,膜融合過程における中間体状態のプロテオリポソー
形成し,その膜安定性を評価した.膜形成率,膜寿命,バッ
ムを詳細に計測し,たった 16 % のプロテオリポソームし
ファーの吸入・注入の繰り返し操作に対する耐性力,及び
か脂質二重膜に最近接した半融合状態へと到達しないこと
プロテオリポソームの存在・非存在下における遠心力に対
を報告した .すなわち,系に加えられたプロテオリポ
する耐性力を比較した.その結果,Table 3 に示すように,
ソームの多くが脂質二重膜近辺にまで到達していないこと
脂質二重膜の寿命に関しては PFDS,CPDS 間に大きな差は
を示唆している.そこで著者らは,プロテオリポソームを
見られなかったが,膜形成に関しては PFDS の方が高い膜
脂質二重膜近辺に集中して寄せるため,遠心力による機械
形成確率を示した.さらに,PFDS の方がバッファーの吸
的な力を用いることを試みた(Fig. 6a) .始めに,遠心力
入・注入の繰り返し操作に対する耐性力,遠心力に対する
による脂質二重膜近傍へのプロテオリポソーム濃縮効果を
耐性力ともに高い結果となった.これらの結果から,脂質
確認するため,孔のない Si チップ基板をチャンバーに挟
流動性が高いことは機械的なストレスを受けた際のダメー
み,その片側の水溶液に hERG チャネルを包埋したプロテ
ジを軽減する傾向にあることが推測される.以上より,
オリポソームを加えた.このチャンバーに異なる強度の遠
チップ表面を化学修飾して脂質流動性の高い両疎媒性表面
心力を加え,各々の基板表面形状を AFM により解析した.
35)
24)
総合論文
小宮,馬,但木,平野 : 人工細胞膜を用いたイオンチャネルタンパク質解析系の開発─個別化医療のための hERG チャネル薬物副作用評価を目指して─
Fig. 6
755
Centrifugal force as a driving force to improve the accessibility of membrane vesicles to BLMs
(a) Si chips with no apertures were centrifuged in the presence and absence of membrane vesicles
containing hERG channels. (b-f) The surface topography of the chips after centrifugation was
analyzed by AFM. Conditions for centrifugations: (b) 1000 rpm for 10 min without membrane
vesicles, (c) 300 rpm for 30 min with membrane vesicles containing hERG channels, and (d-f) 10 min
centrifugation with membrane vesicles containing hERG channels at (d) 500 rpm, (e) 800 rpm, and
(f) 1000 rpm. The middle area (90 μm×90 μm) of Si chip was scanned. This area covers the
region of the BLMs (ɸ: 18-55 μm) in the case of Si chips suspending BLMs. (g) Example of single
hERG channel currents recorded after centrifugation at 500 rpm for 10 min. The applied potential
was -100 mV. (h) Example of multiple hERG channel currents recorded after centrifugation at 500
rpm for 10 min. The applied potential was -100 mV. Reprinted from Hirano-Iwata, A. et al. (2016)
Biophysical Journal 110, 2207-2215. Copyright 2016 Biophysical Society.
その結果を Fig. 6b-f に示す.500 rpm(14×g)以上の遠心
結果,hERG チャネルのチャネル電流を約 70 % の確率で
力を印加した Si チップ基板上にはプロテオリポソーム由
観測することができた.観測された単一チャネルコンダク
来の付着物が観測され,その付着量は,遠心力強度に依存
タンスは 10 pS であり,先行研究で報告されている値(11
した.このことから,500 rpm(14×g)以上の遠心力を加
pS 〜 12 pS) とほぼ一致した.
36)
えることでプロテオリポソームを脂質二重膜近傍に濃縮す
著者らはさらに,hERG チャネル以外のチャネルタンパ
ることが可能であることが示唆された.次に,実際に,脂
ク質でも遠心操作によって脂質二重膜に包埋できるかどう
質二重膜に対して hERG チャネル含有プロテオリポソーム
かの検証を行った.ここでは,心筋細胞の活動電位発生に
を加え,ここに 500 〜 1000 rpm(14 〜 55×g)の遠心力を
重要な電位依存型ナトリウムチャネル Nav1.5
10 分間印加し,膜融合に対する遠心力の効果について検討
達の阻害機構に大きく関与するリガンド依存型アニオン
した.hERG チャネルの脂質二重膜への包埋の有無につい
チャネルの γ アミノ酪酸受容体(GABAAR) を用いた.800
ては,hERG チャネル電流の測定を行い,チャネル電流が
rpm 以上の遠心力を加えたところ,双方のチャネルとも
記録できた場合はチャネルが包埋されたものとした.その
67 % の確率でチャネル電流を記録することができた.観
と,神経伝
37)
38)
756
BUNSEKI
Vol. 67 (2018)
KAGAKU
Fig. 7 Example of NaV1.5 channel currents
recorded after centrifugation at 800-900 rpm
(a) Typical NaV1.5 single-channel currents at an
applied potential of +200 mV. The current was
recorded after centrifugation at 800 rpm for 5 min.
(b) Inhibition of NaV1.5 channel activities by TTX at
the single-channel level (1) and the multichannel
level (2). Reprinted with modification from HiranoIwata, A. et al. (2016) Biophysical Journal 110, 22072215. Copyright 2016 Biophysical Society.
測された Nav1.5 及び GABAAR のチャネル電流は,それぞ
れの阻害剤 tetrodotoxin(TTX),picrotoxin によって抑制
された(Figs. 7, 8)
.したがって,Nav1.5,GABAAR の場合
でも遠心によってイオンチャネルの包埋促進が可能である
ことが実証された.
次に,著者らはプロテオリポソームの粒径分布を測定
Fig. 8 Example of GAVA AR channel currents
recorded after centrifugation at 800-1000 rpm
(a) Typical single-channel currents recorded at an
applied potential of -200 mV. GABA was added to
the trans solution to produce a concentration of 1
mM. The current was recorded after centrifugation
at 800 rpm for 10 min and 1000 rpm for 5min. (b)
Typical GAVAAR multichannel currents at an applied
potential of +100 mV. GABA and picrotoxin were
added to the trans solution to give a concentration of
1 mM and 0.01 mM, respectively. The current was
recorded after centrifugation at 900 rpm for 10 min.
Reprinted from Hirano-Iwata, A. et al. (2016)
Biophysical Journal 110, 2207-2215. Copyright 2016
Biophysical Society.
し,プロテオリポソームにかかる遠心力を見積もった.そ
の結果,最も高い割合で存在していた粒径 200 〜 400 nm
とが示唆された.
のプロテオリポソームにかかる遠心力は,最大の 1000
rpm においても 2.2×10 〜 1.7×10 pN の極めて小さい
3・3
力であることが分かった.この遠心力の大きさは,近接し
イオンチャネルを包埋した人工細胞膜の構築において,
–3
–2
hERG チャネルの無細胞合成への取り組み
たリポソーム間のベシクル融合に必要な力の報告値(100
通常は,標的イオンチャネルを遺伝子導入により発現させ
に比べて 10 〜 10 倍も小さかった.この結
た細胞から膜画分を抽出してプロテオリポソームを調製す
〜 500 pN)
39)
40)
4
5
果は,遠心力による膜融合促進が,膜融合過程自体の促進
る.この手法では細胞からサンプルを抽出しているため,
というよりも,プロテオリポソームの脂質二重膜近傍への
標的とするイオンチャネル以外にも別の夾雑膜タンパク質
濃縮によるものであることを示唆している.遠心力によ
を含んでしまう可能性も高い.夾雑膜タンパク質の混入を
り,膜近傍のプロテオリポソーム濃度が増大し,ベシクル
抑えるため,著者らは無細胞合成に着目した.無細胞合成
融合に至るプロテオリポソーム数の増大につながったもの
とは細胞を用いることなくタンパク質を in vitro の条件下
と考えられる.以上の結果から,遠心力によってイオン
で作製する手法である .イオンチャネルのような膜タン
チャネル含有プロテオリポソームを膜近傍に濃縮すること
パク質の合成の場合は,リポソームと呼ばれる球状の脂質
により,脂質二重膜へのチャネル包埋過程が促進されるこ
膜小胞を添加することで,対象のイオンチャネルのみを含
41)
総合論文
小宮,馬,但木,平野 : 人工細胞膜を用いたイオンチャネルタンパク質解析系の開発─個別化医療のための hERG チャネル薬物副作用評価を目指して─
757
Fig. 9 Example of single-channel currents of cell-free synthesized hERG channels before and after the
addition of astemizole
(a) Typical single-channel currents recorded at -100 mV after a prepulse of +50 mV. An expanded
current trace is shown in the top trace on the right. Three representative currents, obtained in the same
manner from the same BLM, are shown. (b) Current traces after the addition of astemizole, which was
added to the trans compartment. The final concentration of astemizole in the trans compartment was 1
μM. The diameter of the aperture was 45 μm. Reprinted from Tadaki, D. et al. (2017) Scientific
Reports 7, 17736.
なった.このチャネル電流は,hERG チャネルへの副作用
で有名な抗ヒスタミン剤の astemizole の添加によって,抑
制された(Fig. 9b)
.これらの結果から,無細胞合成した
hERG チャネルを脂質二重膜中に包埋することが可能であ
ることが実証された.無細胞合成系は,従来の細胞を用い
た手法よりも短時間でタンパク質の合成が可能であること
から,迅速な解析をする上でも有効な手法であると見込ま
れる.また,無細胞合成を用いることにより様々な遺伝子
型(野生型・変異型)の hERG チャネルの合成も可能であ
り,多種類の変異型 hERG チャネルを本手法に適用し,
個々の変異型が示す薬物副作用リスクを評価していけば,
個人個人の副作用リスクのデータベース化につながると期
Fig. 10 Blocking of a single hERG channel by
E-4031 and astemizole
(a) Before the addition of blockers (control). (b)
After the addition of E-4031. (c) Recovery from
E-4031 block after through washout. (d) After the
addition of astemizole. Applied potential: -100 mV.
Reprinted from Oshima, A. et al. (2013) Analytical
Chemistry 85, 4363-4369. Copy right 2013 American
Chemical Society.
待される.
3・4
スクリーニング系の展開に向けて
安全性薬理試験の国際的ガイドライン ICHS7B において
は,hERG チャネルへの副作用スクリーニング系として,
現行のパッチクランプ法に加えて,新規なチャネルアッセ
イ系開発の有用性についても言及している.著者らは,
hERG チャネル包埋人工細胞膜を用いた副作用評価法を構
築し,新規 hERG チャネル副作用スクリーニング系として
有したプロテオリポソームを調製できる .著者らは,無
提案した.Fig. 10 に本副作用評価系を用いて観測された
細胞合成系を専門にする埼玉大学の戸澤譲教授の研究室と
hERG チャネルの薬物応答を示す .ポジティブコント
共同研究を開始し,hERG チャネルの無細胞合成を行い,
ロールとして特異的阻害剤の E-4031 を,副作用薬物の代表
本実験系の脂質二重膜へと遠心包埋促進法により組込ん
例として astemizole を用いた.始めに,単一チャネル電流
.電圧を印加し,その単一チャネル電流を測定した結
を記録してコンダクタンスレベルを観測したのち,E-4031
42)
だ
25)
34)
果が Fig. 9a である.合計 65 個の単一チャネルが観測され,
による阻害作用を記録し,観測された電流が hERG チャネ
その平均コンダクタンスを計算すると 13.0±0.2 pS(mean
ル電流であることを確認した.次に E-4031 を洗い流したの
±SEM)となり,先行研究で報告されている細胞由来の
ち,対象薬物の astemizole を加えたところチャネル電流が
hERG チャネルのコンダクタンスの値とほぼ同じ結果と
抑制された.したがって,astemizole には hERG チャネル
758
BUNSEKI
Vol. 67 (2018)
KAGAKU
細胞合成系による迅速且つ純度の高い hERG チャネルの合
成,及び Si 基板の形状と使用するシラン化剤を工夫するこ
とによる膜安定性の向上等,これらのアプローチの組み合
わせにより,著者らは個別化医療のための人工細胞膜を用
いた副作用評価系を確立し,実用化していきたいと考えて
いる.
4
おわりに
本研究では,心筋細胞上に多く存在するカリウムイオン
チャネル hERG を標的として人工細胞膜を用いたイオン
チャネルの解析系の開発を行ってきた.hERG チャネルは
不整脈など,時に命にかかわるような深刻な心疾患と強く
関連しており,抗ヒスタミン剤など日常にありふれた薬剤
などの副作用によっても容易に阻害されてしまう.薬剤服
用後でなければ副作用のリスクを判断できないことは患者
Fig. 11 Procedure for simultaneous BLM formation
and rearrangement of the BLMs into a horizontal
array format
Reprinted from Hirano-Iwata, A. et al. (2012) Applied
Physics Letters 101, 023702. Copyright 2012
American Institute of Physics.
にとっては非常に危険であり,また,その副作用リスクは
hERG チャネルの遺伝子型(野生型・変異型)によっても
異なるため,各患者の遺伝子型に応じて薬物副作用リスク
を評価できるスクリーニング系の構築が必要とされる.本
研究の目指すところは,hERG チャネルの各遺伝子型に応
じて副作用を引き起こす薬剤化合物を網羅的に同定するこ
との出来る評価系の開発であり,ひいては hERG チャネル
への阻害作用,すなわち副作用をもつことが分かる.この
の各遺伝子型に対して,副作用のリスクのある薬剤化合物
アッセイ法では,添加した薬剤の洗浄が必須となるが,上
をデータベース化することで,患者一人一人に合わせた薬
述のアプローチにより溶液交換耐性を獲得した機械的強度
の処方時の診断材料,または創薬をする上での参考資料と
の高い人工細胞膜を用いることで,初めてこのようなアッ
して役立てられるようにすることである.著者らは本実験
セイ系の設計が可能となった.
系をより実用レベルで使用できるよう,脂質二重膜の膜安
今後の展開としては,各遺伝子型の hERG チャネルに対
定性の向上や,イオンチャネルの包埋率の改善等を行って
して副作用を生じうる薬物を網羅的に同定・解析できるハ
きた.しかしながら,依然として人工細胞膜の構築効率が
イスループットスクリーニング系の構築が考えられる.そ
十分に高くはないなど,まだまだ課題は多々ある.上述の
こで著者らは,1 つのチャンバー内に複数枚の Si チップを
目的の実現に向け,著者らはよりいっそう本実験系の改善
設置することにより,多数の脂質二重膜形成場を設けたマ
及びスクリーニング系の確立に努める所存である.
ルチウェルアレイの作製を進めている .Fig. 11 に示した
43)
のは 2012 年の時点で作製したマルチウェルアレイチャン
バーの模式図である.複数の Si チップに脂質二重膜を形成
させ,片側のバッファーを加えた孔を密閉する.チャン
バーを横倒しにし,各ウェルに電極を差すことでそれぞれ
のウェルにおけるチャネル電流が測定できる仕組みとなっ
ている.このチャンバーでは,各ウェルにおけるチャネル
電流は互いに干渉せず,マルチウェルアレイでのチャネル
電流の同時観測が可能であることが示唆された.しかし,
hERG チャネルのような包埋が難しいチャネルに対して
は,遠心操作等のチャネル包埋を促進する工夫が必要とな
るため,遠心操作に対応させるべく,現在マルチウェルア
レイチャンバーの改良に努めているところである.
マルチウェルアレイチャンバーによる複数のチャネル電
流の同時観測,遠心操作によるチャネル包埋率の向上,無
謝
辞
本 研 究 の 一 部 は, 科 学 技 術 振 興 機 構「CREST」
(JPMJCR14F3)の支援によりなされたことを付記し,ここ
に謝意を表します.また,無細胞合成 hERG チャネルをご
提供いただいた埼玉大学の戸澤譲教授及び研究室の方々に
感謝の意を示します.
文
献
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760
BUNSEKI
Vol. 67 (2018)
KAGAKU
Development of an Analytical System for Ion Channel Proteins Based on
Artificial Bilayer Lipid Membranes
―Screening of Drug Components that Haveing Side Effects on
hERG Channels for Personalized Medicine―
*1
2
1
1,2
Maki KOMIYA , Teng MA , Daisuke TADAKI and Ayumi HIRANO-IWATA
*
E-mail : maki.komiya.c7@tohoku.ac.jp
1
Laboratory for Nanoelectronics and Spintronics, Research Institute of Electrical Communication, Tohoku
University, 2-1-1, Katahira, Aoba-ku, Sendai-shi, Miyagi 980-8577
2
Advanced Institute for Materials Research, Tohoku University, 2-1-1, Katahira, Aoba-ku, Sendai-shi, Miyagi
980-8577
(Received August 3, 2018; Accepted September 4, 2018)
The human ether-a-go-go related gene (hERG) channel is a cardiac voltage-dependent
potassium channel, which plays a key role in action potential generation in the heart. Since a
diverse group of drugs can adversely block hERG channels, and can sometimes induce lifethreatening arrhythmias, it is highly important to develop an efficient system for assessing the
potential risks of such drug side effects on the hERG channel. An artificially formed bilayer
lipid membrane (BLM) with the incorporated ion channels is a strong candidate for this assay
platform. However, two major problems associated with BLM systems reduce their
experimental efficiency, namely, the instability of BLMs and a low efficiency of ion channel
incorporation into BLMs. In this paper, we will discuss our recent approaches to address
these issues through the combination with silicon (Si) microfabrication techniques, and also
discuss the application of the BLM systems to a hERG assay platform. Mechanically stable
solvent-free BLMs were formed in microapertures fabricated in Si chips. The edge of the
aperture was tapered in both nano- and micro-meter scales, leading to a smooth contact
between the BLMs and the aperture wall. Another approach for improving the stability of
BLMs is based on surface modification of the Si chips. It was found that highly stable BLMs
were formed in amphiphobic Si chips that had been treated with long-chain perfluorocarbons.
Owing to the mechanical stability of the BLMs, we also developed a centrifugal method for the
efficient incorporation of human ion channels, including hERG channels, into solvent-free
BLMs. The method improves the probability of vesicle fusion between the BLMs and
channel-containing proteoliposomes. We also combined the BLM system with cell-free
protein synthesis. Single-channel currents of a cell-free synthesized hERG channel were
clearly recorded. The channel currents were blocked by the addition of an antihistamine
astemizole, whose adverse effect on the hERG channel is well-established. When the present
stable BLM system is combined with various hERG channel genotypes, it will provide a potential
platform for assessing the risks of drug side effects acting on hERG channels of each patient.
Keywords: artificial bilayer lipid membrane; ion channel protein; drug side effect; silicon
microfabrication; drug screening.
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