Uploaded by 홍진석

2013 1A2-O04 1

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The Japan Society of Mechanical Engineers
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昆虫サイボーグ創製に向けた昆虫搭載型バイオ燃料電池の開発
―背脈管を駆動源とした体液循環システム―
Insect-mountable Biofuel Cells Leading to an Insect Cyborg
-Self-circulation System of Insect Hemolymph Powered by Dorsal Vessel○正 庄司
鈴木
大野
観 (阪大)
将登(農工大)
弘幸(農工大)
正
正
秋山
中村
森島
佳丈(阪大)
暢文(農工大)
圭祐(阪大)
Kan SHOJI, Osaka University, shoji@live.mech.eng.osaka-u.ac.jp
Yoshitake AKIYAMA, Osaka University
Masato SUZUKI, Tokyo University of Agriculture and Technology
Nobuhumi NAKAMURA, Tokyo University of Agriculture and Technology
Hiroyuki OHNO, Tokyo University of Agriculture and Technology
Keisuke MORISHIMA, Osaka University
This paper reports the potentiality of a semi-permanent integrated power source mounted on an insect. First, an
insect biofuel cell (BFC) based on trehalase and glucose oxidase reactions which oxidize β-glucose obtained by
hydrolyzing trehalose found in cockroach hemolymph (CHL) was developed and the maximum power density of 46
µW/cm2 was obtained. Then, a self-circulation system of CHL powered by the dorsal vessel of a cockroach was
developed for self-refueling of an insect-mountable BFC and connected to a cockroach with a flow channel. Finally,
the electrochemical reaction of the anode was confirmed to take place when the chamber was mounted onto the
cockroach. The results have enough potential to be applied for a micro battery of novel ubiquitous robots such as
insect cyborgs in near future.
Key Words: Insect, Trehalose, Dorsal Vessel, Biofuel Cell, Self-circulation
1. 緒言
昆虫は,地球上で最も成功した生物であり,至る所に存在
している[1].また昆虫は,養蚕や養蜂,タンパク質精製など
幅広く産業的に利用されてきた.さらに,昆虫の機能や構造
を模倣することで,高性能なマイクロロボットが開発されて
いる[2].しかしながら,昆虫に匹敵する性能を持ったセンサ
やマイクロロボットは未だ開発されていない.つまり,昆虫
は最も完成された MEMS (micro electro mechanical systems)デ
バイスの一つと言える.
そこでこれまで,昆虫全体もしくは昆虫の一部分を利用す
ることで,高性能なセンサやロボットが開発されてきた.昆
虫をセンサやロボットとして利用することが出来れば,災害
時の探査ロボット,環境モニタリングロボットとして活用す
ることが出来る.下山らのグループは昆虫の動きに対する神
経電位を解析し,生きた昆虫の神経に電気刺激を与えること
で昆虫の歩行を制御した[3].神崎らのグループは蛾の触角を
センサとして利用することで,高感度なセンサロボットを開
発した[4].佐藤らのグループや Bozkurt らのグループは昆虫の
筋肉や神経に電気刺激を与えることで昆虫の飛行制御に成功
した[5, 6].現在,これら昆虫ロボットの電源として,コイン
電池が使用されているが,昆虫にとって大きく,重いため,
昆虫の動きを妨げてしまう.また,充電や交換が必要である
ため,長時間行動させることが出来ない.しかし,その電源
部の小型・軽量化,長寿命化についての研究は行われてこな
かった.
一方,化学エネルギを直接電気エネルギに変換する燃料電
池がすでに実用段階であるが,触媒として高価なレアメタル
が必要,反応熱の発生,燃料・エネルギ資源が限られている
ことなどが課題となっている.そこで,新たな原理の燃料電
池として,酵素や微生物に基づくバイオプロセスを利用した
バイオ燃料電池が注目を集めている.その中でも天然に存在
するグルコースを燃料としたグルコースバイオ燃料電池は
1.24 V の起電力を有する有望な燃料電池系で,近年では電流
が数 mA/cm2 レベルになり,出力が数 mW/cm2 程度のものが作
製されており注目を集めている[7].また,血液中のグルコー
スをターゲットとし,体内埋め込み型センサやペースメーカ
ーの電源としてグルコースバイオ燃料電池を利用する試みが
行われている.Cinquin らのグループはラットの体内にグルコ
ースバイオ燃料電池を埋め込み,発電することに成功した[8].
三宅らのグループはウサギの耳に針型のバイオ燃料電池を刺
すことで 0.42 μW の発電量が得られている[9].
しかしながら,哺乳類の主な血糖がグルコースであるのに
対し,昆虫体液の主な血糖はグルコースが 2 分子結合したト
レハロースである.そのため,グルコース酸化酵素であるグ
ルコースオキシターゼ(GOD)を利用した従来の発電システム
を昆虫体液バイオ燃料電池にそのまま応用することはできな
い.そこで我々は,トレハロースを酵素によりグルコース 2
分子に加水分解した後に GOD の反応を適用したトレハロース
バイオ燃料電池を開発し,ゴキブリの体液から発電すること
Fig. 1 Power generation mechanism by exploiting trehalose
conversion to β-glucose and β-glucose oxidation by means of GOD
immobilized on the anode.
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Fig. 3 Photograph of the self-circulation system consisting of a
Madagascar cockroach, the connectors and the flow channel. Top
insert: Cross sectional view of the self-circulation system.
2.2 背脈管のポンプ性能評価
ゴキブリ背脈管内の体液流量を測定することで,昆虫自身
の循環系を駆動源とした体液体外循環が可能か評価した.背
脈管は,哺乳類における心臓に相当する器官で,背部の正中
線の皮下を腹部後端から頭部まで通った管状の組織である.
に成功している(図 1) [10, 11].
いくつかの心室に分かれており,その境界には逆止弁があり,
そこで本研究では,昆虫体液を用いて昆虫からオンサイト
蠕動運動することで,体液を一方向に循環させている.
で半永久的に発電するために,昆虫搭載型バイオ燃料電池を
ゴキブリを解剖し,背脈管のある背中部を外骨格ごと摘出
提案する(図 2).昆虫搭載型バイオ燃料電池は,燃料を供給す
した.摘出した背脈管に直径 10 µm の蛍光ビーズを分散させ
る流路部と供給された燃料から発電を行う反応部,そして燃
たゴキブリ用生理食塩水(pH 6.5) [13]を加えた.蛍光顕微鏡
料を補給し発電による不要物を排出する昆虫から構成される. (MVX10, Olympus)を用いて背脈管内の蛍光ビーズの変位を観
まず,体液バイオ燃料電池の透析膜の保護により電池性能の
察することで,背脈管内の体液流量を測定し背脈管のポンプ
向上を図る.次に,流路部として昆虫自身の循環系を利用し
性能を評価した.
た,体液体外循環システムを構築するために,昆虫の心臓組
2.3 体液循環システム
織に当たる背脈管内の体液流量を測定する.その後,フロー
昆虫体液を用いて半永久的に発電するためには,燃料であ
チャネルを昆虫に接続することで体液循環システムを作製す
るトレハロースを供給し続ける必要がある.ゴキブリ体液中
る.最後に,昆虫にチャンバを搭載し,昆虫オンサイトでの
トレハロース濃度は約 100 mM,体液量は約体重の 20 %であ
サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行う.
る[14].そのためゴキブリ一匹当たり約 140 μmol のトレハロ
2. 実験
ースが含まれている.また,体液中のトレハロースは脂肪体
2.1 体液バイオ燃料電池
が分解されることにより生成され,ワモンゴキブリでは1日
カーボンペーパー(CP)電極上に炭素微粒子であるケッチェ
に 2 mg 以上生成されることが知られている[15].そのため,
ンブラック(KB) (ketjen600EC,ライオン株式会社)を固定した
体液中のトレハロースを供給し続けることで,半永久電源の
電極を基盤電極として使用した.基盤電極上に,電子伝達物
創製が可能である.
質であるフェロセンと GOD を塗布しアノードとして用いた.
作製した体液体外循環システムはコネクタとフローチャネ
カソードは,ビリルビンオキシターゼ(BOD)を基盤電極上に塗
ルから構成される(図 3).光造形装置(RVS-S1, Real Vision
布したものを用いた.
Systems Inc.)を用いて昆虫とフローチャネルのコネクタを作
本研究では,体が大きくハンドリングが容易で,環境適応
製し,昆虫への毒性を緩和させるために生体適合性の高いパ
性が強いマダガスカルゴキブリを使用した.ゴキブリ体液
リレンを 500 nm の厚さで蒸着した.フローチャネルは,光造
(CHL)に含まれるタンパクや脂肪体など高分子の電極への付
形装置を用いて作製した型に polydimethylsiloxane (PDMS)を
着を防ぐために,透析膜を用いて電極表面を保護した.トレ
転写することで作製した.流路サイズは,流路幅 2 mm,深さ
ハロースの分子量が 342 であるため,分画分子数が 500-1000
1 mm とした.まず,作製したコネクタを背脈管上の外骨格の
の透析膜を用いた.解剖により採取した CHL1 mL と,トレハ
前後にエポキシ系接着剤(Araldite, Huntsman)を用いて接着し
ロースをグルコースに分解するトレハラーゼ(Tre)とムタロタ
た.次に,ドリルを用いて外骨格に直径 1 mm の穴をあけ,そ
ーゼ(Mut)をそれぞれ濃度 0.1 U/3 mL,10 U/mL で加えた 100
の後,直径 10 μm の蛍光ビーズを含んだゴキブリ用生理食塩
mM リン酸緩衝液(pH 6.5)を,透析膜を介して,室温で一日静
水で満たされたフローチャネルをコネクタに接続した.蛍光
置した.その後,アノードとカソードを緩衝液に挿入し,電
顕微鏡(MVX10, Olympus)を用いてフローチャネル内の蛍光ビ
力を測定した.測定には Solartron 社の電気化学測定装置
ーズの変位を観察し,体液循環システムの評価を行った.
(SI1280B)を用いた.また,カソードを溶液と空気どちらに
2.4 昆虫オンサイトでの CV 測定
も接する空気拡散型カソード[12]とし発電実験を行った.空気
昆虫搭載型電源による発電の評価を行うために,昆虫に搭
拡散カソードを使用することで,空気中の酸素を使用するこ
載したチャンバにおけるアノードの電気化学反応評価を行っ
とが出来る.
Fig. 2 Schematic illustration of the insect-mountable biofuel cell
with a self-circulation system including a dialysis membrane, a
chamber and an insect BFC.
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Fig. 4 Photograph of Madagascar Cockroach connected a chamber.
An anode, reference and counter electrodes were inserted into the
chamber.
Fig. 5 Performance of the insect BFC with dialyzed CHL with added
Tre and Mut. The perpendicular axes on the left and the right show
power density and current density, respectively.
た.チャンバは PDMS を用いて作製し,チャンバのサイズは
縦 25 mm,横 20 mm,深さ 0.5 mm とした.Tre と Mut を加え
たゴキブリ用生理食塩水(pH 6.5)で満たしたチャンバを,ゴキ
ブリに接着したコネクタに接続し,エポキシ系接着剤で固定
した.Plastic formed carbon 電極(直径:3 mm)上に KB,フェロ
セン,GOD をそれぞれ塗布し,室温で乾燥させ,アノードと
した.
本研究では CV 測定によりアノードの電気化学的特性を評
価した.作用電極には作製したアノードを,参照電極には
Ag|AgCl 電極を,対電極には白金電極を用い,チャンバ搭載1
日後にそれぞれの電極をゴキブリに搭載したチャンバに接続
し測定した(図 4).さらに,ゴキブリ用生理食塩水(pH 6.5),100
mM グルコース溶液(ゴキブリ用生理食塩水,pH 6.5)でも同様
に CV 測定を行い,ゴキブリ搭載型チャンバにおける電気化学
反応と比較検討した.
3. 結果・考察
3.1 体液バイオ燃料電池
体液バイオ燃料電池の出力を図 5 に示す.開回路電圧 520
mV,最大電流密度 200 µA/cm2,最大電力密度 46 µW/cm2 とな
った.これまで,昆虫体液を用いて最大 10.5 µW/cm2 の最大電
力密度が得られていた[10, 11].従来研究では,体液中に含ま
れる脂肪体やタンパクなど高分子の電極上への付着により,
出力が低下していた.本研究では,透析膜を用いて電極を保
護することにより,昆虫体液中に含まれる脂肪体やタンパク
などの高分子が除去され,電極への付着が防がれた.その結
果,電極表面の抵抗増加,酵素の失活が防がれ,透析してい
ない体液に比べ最大電流密度,開回路電圧共に上昇し,最大
Fig. 6 Time course of displacement of the fluorescent bead in the
dorsal vessel.
Fig. 7 Time course of displacement of the fluorescent bead in the
flow channel connected to a cockroach.
電力密度も増加したと考えられる.
また,Rasmussen らのグループは,昆虫体液中のトレハロー
スを用いた同様の発電システムを発表しているが,2 時間後に
出力が 6.5 %に低下している[16].我々のバイオ燃料電池では,
透析膜を用いて電極を保護することにより電池出力の低下を
防ぐことにも成功している.
3.2 背脈管のポンプ性能評価
図 6 に背脈管内の蛍光ビーズをトラッキングし,変位を求
めた結果を示す.ビーズの変位は,画像解析ソフト
(DIIP-Motion Pro 2D, DITECT)を使用し計測した.背脈管の拍
動 1 回で,蛍光ビーズが約 3.9 mm 変位していることが確認で
き,拍動周波数は約 0.81 Hz であった.背脈管を円管と考え内
径を 200 µm とすると,背脈管内の流量は約 50 nL/s と求めら
れる.そのため,昆虫自身の循環系を駆動源とした体液循環
システムを構築することで,半永久的に駆動可能な体液体外
循環システムの構築が可能である.
3.3 体液循環システム
フローチャネルをゴキブリに繋ぐことで,背脈管によるチ
ューブ内のビーズの変位が観察された(図 7).ビーズの変位は,
画像解析ソフト(DIIP-Motion Pro 2D, DITECT)を使用し計測し
た.拍動 1 回につきビーズが約 20 μm 移動していることが確
認できた.また,拍動の周波数は約 0.95 Hz である.そのため,
流路内にチェックバルブを構築することで最大約 19 nL/s の流
量を得られる可能性がある.
探 査 ロ ボ ッ ト の セ ン サ と して 使 用 可 能 な 赤 外 線 セ ン サ
(AMN41121, Panasonic)の駆動電力は約 180 μW であり,1 秒間
に 1.22 nmol のトレハロースを消費する.また,ゴキブリ体液
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半永久的な体液体外循環システム構築が可能であることを示
した.さらに,燃料供給システムとして昆虫自身の循環系を
用いた体液体外循環システムを作製し,昆虫にフローチャネ
ルを接続することで,最大で 19 nL/s の流量が得られる可能性
を示した.最後に,昆虫にチャンバを接続し,グルコース酸
化電極の CV 測定を行い,昆虫からオンサイトでグルコースの
酸化電流を確認した.以上の結果より,昆虫体液中トレハロ
ースを用いた昆虫搭載型バイオ燃料電池開発の可能性が示さ
れた.
謝
辞
本 研 究 の 一 部 は , 科 学 研 究 費 補 助 金 ( Nos. 20034017,
21676002, 21225007, 21111503, 23111705)
,NEDO 産業技術研究
助成および東電記念財団の研究助成を受けて行われた.
Fig. 8 CVs of anodes modified GOD in (a) a cockroach saline, (b)
100 mM glucose solution and (c) the chamber connected to a
cockroach at 10 mV/s.
中のトレハロース濃度が 100 mM であるため少なくとも 1 秒
間に 12.2 nL の体液を循環させなければならない.
本研究では,
赤外線センサの連続駆動に必要な流量とほぼ同等の流量が得
られる可能性を示すことが出来た.しかしながら,さらに消
費電力の大きい機器を駆動させ続けるためには流量が足りな
いため,昆虫の動きを利用したポンプの設計などによる更な
る流量の増加が必要である.
3.4 昆虫オンサイトでの CV 測定
ゴキブリ用生理食塩水,100 mM グルコース溶液,ゴキブリ
搭載型チャンバにおけるグルコース酸化電極の CV 曲線を図 8
に示す.ゴキブリ生理食塩水では,グルコースが含まれてい
ないため,電子伝達物質であるフェロセンの酸化還元電流の
みが確認された.一方,100 mM グルコース溶液,ゴキブリ搭
載型チャンバでは,ゴキブリ用生理食塩水に比べ,酸化電流
が増加しており,電極上に塗布したグルコース酸化酵素によ
る反応を確認できた.しかしながら,ゴキブリ搭載型チャン
バではフェロセンの還元反応による電流も見られており,グ
ルコース溶液に比べグルコース濃度が低いと考えられる.こ
れは,ゴキブリ体液がチャンバ内のゴキブリ用生理食塩水に
よって希釈され,トレハロース・グルコース濃度が低くなっ
てしまったためだと考えられる.さらに,ゴキブリ体液には
多くのタンパク質や脂肪体が含まれており,それら体液成分
の電極表面得への付着により,電極上の酵素反応を阻害して
しまったと考えられる.そのため,昆虫に搭載するチャンバ
に透析膜を装着し,体液中に含まれるたんぱく質や脂肪体の
電極への付着を防ぐ構造にする必要がある.
また,ゴキブリ搭載型チャンバではグルコース溶液に比べ,
酸化電流のピークにずれが発生している.血清を用いた発電
実験において尿素や Mg2+,Ca2+,HCO3-など低分子イオンの電
気化学反応における影響が報告されている[17].ゴキブリ体液
にも Na+,K+などのイオン,有機酸イオンが多く含まれている
ため,それらのイオンの電気化学反応により,グルコース溶
液に比べ低い電位で酸化電流が確認されたと考えられる.
文
[1]
[2]
[3]
[4]
[5]
[6]
[7]
[8]
[9]
[10]
[11]
[12]
[13]
[14]
[15]
4. 結言
本研究では,昆虫自身の生理・生体機能を用いた昆虫搭載
型バイオ燃料電池を提案した.その発電部として昆虫体液中
に含まれるトレハロースを用いた体液バイオ燃料電池を開発
し,電極を透析膜により保護することで昆虫体液から 46
µW/cm2 の最大電力密度が得られた.また,ゴキブリ背脈管内
の体液流量を測定し,昆虫自身の循環系を利用することで,
[16]
[17]
献
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