Uploaded by manjusakabinganhoa

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小売マーケティングにおけるプライベート・ブランド開発と承認概念
-八社会の事例における協調と分業Building Private Brand
in Retail Marketing: Cooperation and specialization of The Hassyakai
佐藤敏久
高崎商科大学
Toshihisa Sato
Takasaki University of Commerce, Gunma
t-sato@tuc.uv..ac.jp
抄録: 八社会のプライベート・ブランド開発の事例を通して,現在のブランド論の主流である,
「ブランド認知」と「ブ
ランド知識」の間に乖離を指摘する。そして,その乖離を埋める概念として「承認」を提示し,新しい視点を提供すると
ともに,流通におけるパワー・バランスの変化を考察することによって,なぜプライベート・ブランドが小売業の品揃え
において,割合を増加させることになったのかを明らかにする
Key Words: プライベート・ブランド,承認,利益率,流通におけるパワー・バランス
1.緒言
本稿の目的は,ブランドを「ブランドになりそうな
ものと,顧客になりそうなものの二者間の関係構築ある
いは状態(ブランディング)
」と捉え,八社会のプライベ
ート・ブランド開発の事例を通して,現在のブランド開
発に関する議論の主流である,
「ブランド認知」と「ブラ
ンド知識」の間に乖離があることを指摘する。
小売マーケティングにおけるブランディングの重要性
を,製品ではなく,店舗や全社レベルのブランド・エク
イティをうるまで高めるためには,
プラーベート・ブラン
ド(以下,PB)の品質はもちろん,価格を含めた NB と
の相対的な知覚
(意味づけ)
の差異を埋める必要がある。
それゆえ,その乖離や差異を埋める概念として「承認」
概念を提示し,新しい視点を提供するとともに,流通に
おけるパワー・バランスの変化を考察することによって,
なぜプライベート・ブランドが小売業の品揃えにおいて,
割合を増加させることになったのかを明らかにする。
特に,激化する競争環境にある,小売業のマーケティ
ングにおける「利益率の増加」や「値ごろ感を意識した
価格訴求」といったプライベート・ブランド構築の,一般
的な根拠に,新たな視点の提示を試みる。
ある。ある商品に対して,ある人は「ブランドである」
といい,ある人は「ブランドではない」という場合や,
知識はあっても,ブランドだと認めない,あるいは認めた
くないという消費者,あるいは,ブランドであることは
認める(認知はしている)が購買はしないという消費者
もいる。この類の消費者の存在理由は「認知」や「認知
学習」では表現できない。
従来消費者行動論における「認知」や「認知学習」に
は,意味づけ(知覚)の他に,心理的統合プロセスや反
復行為が必要である。しかし,反復行為を行ったからと
いって,よい態度を消費者に持ってもらえるのか明確で
はないし,反復行動がどのようなプロセスを経て,消費
者の知識ネットワークに入り込むのかも全く明らかにな
っていない。実際,よい態度も知識ネットワークも,認
知の反復で成立するには無理がある(図1参照)
。
図1:ブランド知識の構成
価 格
ブ ラ ン ド 想 起
ブ ラ ン ド 認 知
ブ ラ ン ド 再 認
ブ ラ ン ド 連 想
の タ イ プ
ブ ラ ン ド 知 識
ブ ラ ン ド 連 想 の
好 ま し さ
出典)
ブ ラ ン ド
イ メ ー ジ
ブ ラ ン ド 連 想 の
強 さ
属 性
便 益
態 度
製 品 外
パ ッ ケ ー ジ
製 品 関 連
使 用 者
イ メ ー ジ
機 能 的
使 用 イ メ ー ジ
経 験 的
象 徴 的
ブ ラ ン ド 連 想
の ユ ニ ー ク さ
出典)Keller(1998)
,邦訳書,p.132 に一部加筆
なぜなら,認知学習をどれだけ行えばブランドになる
のか,どれだけ認知の反復をすれば知識になるのか,定
量的にも定性的にも研究が進んでいないからである。ま
た,マーケティングの実際の戦略に落とし込んでいく場
合に,何を手段として,ブランドとして認めさせるのか
が曖昧だからでもある。
ブランド・パーソナリティやブランド・リレーションシ
ップでは説明ができるであろうか。八社会の事例を考え
2.先行研究
ブランド開発を下支えする理論は,例えば,ブランド
のアイデンティティや,ブランド知識(Keller,1998)を
中心に考えられている。しかし筆者は,ブランディング
の際に,消費者の知識構造には,
「認知」だけではなく,
「承認(permission)
」という概念が必要であると考え
る。承認とは,
「認知の前後に行われる,ブランドだとい
ってもよいという消費者の許容」であり,
「社会的な合意
として,ブランドと表現していいだろう」という状態で
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は利益率が高いことが特徴である。製造しているのはナ
ショナル・ブランド(NB)メーカーであることも多く,
小売側の注文に合わせて商品化せざるを得ないが,長期
かつ安定的な取引を確保できるメリットもある。
2007 年 5 月 17 日,セブン&アイ・ホールディングス
(以下,セブン&アイ HLDGS)
,傘下の事業会社であ
る,イt-ヨーカドー,ヨークベニマル,ヨークマート,
シェルガーデン合計 388 店舗で,プライベート・ブラン
ド,
「セブンプレミアム」
を展開する方針を明らかにした。
セブンプレミアムの特徴は,
原材料の調達から商品開発,
品質管理まで一貫した体制で関与し,最初は飲料や菓子
など49品目を販売する。そして3年後までに 1000~
1200 品目に増やし,
グループの食品売上高に占める割合
を 15~20%まで高める計画である。
イオンは,
「トップバリュ(TOPVAL)
」の売上高をグ
ループ全体で,今後 4 年間で,現在の 3.4 倍(つまり,
2200 億円から 7500 億へ)に拡大する方針を打ち出し
PB 開発に当たる新会社の設立を計画している。
3 月に提
携したダイエーへの PB 供給も広げる。主力の商品は食
品や衣料品,住居用品である。ダイエーのPB「セービ
ング」は 2008 年度中に廃止する。ダイエーはトップバ
リュの既存商品の販売を始めるほか,イオンと共同開発
する商品を約 980 品目投入する。低価格品はイオンの商
品に一元化する方が規模のメリットを発揮し,コスト削
減につながると判断した。西友は,既にいくつかの PB
をカテゴリーごとに所有している。加工食品と日用品は
「Great Value」,生鮮食品を含めた「食の幸」,
「 Wonderful World of Disney 」, 衣 料 品 の
「Clothing」
,
「Main Stays Home」
,
「George」であ
る。
それぞれにターゲットにしている顧客層が設定され,
店頭に溶け込んでいる。コンビニエンス・ストア(以下,
CVS)では,既にいくつかの PB が販売展開している。
例えば,サークル K サンクスは「KACHIAL(カチアル)
」
を展開している。
現在の PB 誕生の背景には,複合的,多重的な競争構
造がある。小売業において,業態間の競争はいっそう複
雑になり,品揃えで差別化をすることは困難になってい
る。一方で PB は NB よりも価格が 2-3 割安く,品質に
おいても向上している。
さて,八社会とは,1982 年,私鉄系チェーンストア 8
社[小田急商事(株)
・
(株)京王ストア・
(株)京成スト
ア・
(株)京急ストア・相鉄ローゼン(株)
・
(株)東急ス
トア・
(株)東武ストア・
(株)アップルランド]を中心
に設立した,共同企画商品の企画・開発を手がける企業
である。石油ショックの後,中小規模の小売業者が共通
して抱える仕入れや調達にかかるコストを低減するため
協調して組織され,一定の利益率を確保するために企画
され,プライベート・ブランドのマークとして「V マー
ク」を使用している。5 年後の 1987 年,V マーク商品
開発強化並びに国内商品および,海外商品の共同開発・
ると,小売業を主とせず,私鉄の傘下にある小売チェー
ン自体がパーソナリティを形成していったと考えられる
(形成したいパーソナリティを演じるのではない)
。
人間
関係で言えば,人間は人とのコミュニケーションをはか
りながら人格形成がなされていく。パーソナリティの形
成には時間軸があって,
すぐに出来上がるものではない。
ブランド・リレーションシップの考え方では,
メッセー
ジの一貫性が重視される。PB においては「価格以上の
知覚品質の提供」がそれに該当する。例えば,セブンイ
レブン・ジャパンなどが,大手メーカーから値上げ要請
を受けている食品や日用品で,PBを重点的に投入して
いる。コンビニ大手は定価販売を基本としてきたが,低
価格販売を売り物にするドラッグストアなどとの競合が
激しい。値上げによる客離れを防止,低価格のPBを増
やすことで値ごろ感を出している。コンビニエンス・ス
トアのメッセージの一貫性は,
「人々の暮らしのパートナ
ー」である。セブンイレブンは 12 月以降,値上げ要請
のあるティッシュペーパーやドレッシング,
サラダ油で,
セブン&アイグループのPB「セブンプレミアム」を投
入する予定で,価格は大手メーカー商品より安くする。
食パンも「セブンプレミアム」と異なるPB商品を投入
する。ファミリーマートでは,値上げ要請が相次いだこと
を受け,PB比率の目標を当初の 40%から 55%に引き
上げた。カップめんやパンなど値上げが計画されている
商品群で,スーパーとの違いが出せるPBの開発を急い
でいる。メッセージの一貫性が保てなければ,保てるよ
うに品揃えを変更する。
消費者行動論における購買行動の,精緻化見込みモデ
ル(ELM モデル)では,関与があることを前提とした
動機付けが高い場合には,中心的な手がかりが購買には
重要で,この場合は,広告などでメッセージ性のあるも
のが良い態度形成に有効であると言われている。逆に,
動機付けが低い場合,周辺的な手がかりとして,製品や
サービス,価格などの魅力などを訴求していく。PB は
周辺的な手がかりを,つまり,サービスや価格,品質の
確かさを持って購買される。
3.方法 (八社会の事例)
プライベート・ブランド(以下,PB あるいは PB
商品,プラーベート・ラベル,ストア・ブランドともいう)
とは,製造業者のブランド・ネームがついた商品(ナシ
ョナル・ブランド,以下 NB あるいは NB 商品)ではな
く,流通業者が独自に開発,生産から販売までに関わっ
てブランディングを試みている商品である。また,卸売
業者や小売業者が単独で,またはボランタリーチェーン
などを組織し,自ら設定した商標をさす用語でもある。
欧米の例を挙げれば,WAL-MART,ホールセールクラ
ブの Costco,品揃えのほとんどが PB のカルフール,北
欧の家具小売業である IKEA などがある。スーパーや百
貨店の PB で,消費者にとっては安いこと,店にとって
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具体的に言えば,製造業者は,操業していない生産ラ
インを使用でき,小売業者は量的な売り上げを予期でき
るがゆえに,比較的安価で仕入れることができ,消費者
は,品質は同様,という商品を手にすることができる(例
えば,PB 商品の中身は,八社会ならば,コーンフレー
クは日清シスコ,セブン&アイの煎餅ならば,岩槻製菓
というように)
。一方,小売業は,安価で利益率の高いプ
ライベート・ブランドを積極投入した結果,収益力も高
まり,安定した売り上げを得られる1。
八社会のほかにも,コーぺラティブな組織のブランド
がある。
「CGC(Cooperative Grocer Chain)
」のマ
ークで知られる,シージーシー・ジャパン社や「くらし
モア」ブランドで知られる,日本流通産業株式会社が属
するニチウリ・グループは,1974(昭和 49)年,近畿,
中部の各地区を代表するチェーンストア 7 社で発足し,
現在では全国規模の 19 社となって“よりよい品をより
安く”消費者に提供するために設立された。
共同仕
入はもとより,オリジナルブランドの開発や海外商品の
開発輸入など共同体としてのメリットを最大限に生かし
ながら,
“世界のベストソースから良い品をより安く”を
合言葉に,常に新たな暮らしの創造に向けて,積極的な
業容の拡大している。その事業内容は,CGC よりやや
広く,グループ加盟企業へ加工食品,日配食品,生鮮食
品等の食品全般,寝具,インテリア製品,家庭用品等の
住居関連品,婦人衣料,紳士衣料,ベビー,子供衣料等
の衣料品の卸売業務,並びに,間接資材の共同購入を主
体としている。
共同仕入などを推進するため,共同出資により「株式会
社八社会」を設立した。
「安心,安全な品質」を商品コンセプトにして,当初
は共同仕入れによる低価格訴求であったが,徐々に,単
なる低価格ではなく,高品質なものを,消費者がより安
価に感じるような価格で訴求することで徐々に信頼を勝
ち取って成長してきた。
海外に目を向けると,上記以外にも,アメリカの
Whole Food,ニュージーランドの De Bijenkorf,イ
ギリスの Mark&Spencer,フランスの Auchan,スペイ
ンの El Corte Ingles,ベルギーの Delhaize,カナダ
の Lablows,いった小売業者は,それぞれ独自の PB を
持っている。
日本において PB が店頭に並ぶようになったのは,加
工度が低く,保存がきく加工食品や日用雑貨や文房具が
はじまりである。その意味では,日本の PB は欧米と出
自が異なるといえる。
日本でも欧米でも,GMS において利益率が高いのは,
食料品ではなく,衣料品である。近年のイトーヨーカド
ーの高級衣料ブランドの立ち上げや,ダイエーの食料品
PB の「セービング」商品の品目増加,さらにはセブン
&アイ・ホールディングスの PB 開発への本格的な取り
組みという動きは,GMS で取り扱っている同様の商品
が百貨店や専門店で販売しているものより割安なのに着
眼し,ゆくゆくは,GMS において,利益率を高めるた
めに独自のブランディングをすることで,高価格ではあ
るが高い付加価値をつけ,消費者のブランド選好におい
て,彼らの知識やブランド連想のネットワークに入り込
みたいという意図がある。
顧客層や消費者を知り尽くしている小売が,別産業に
PB 商品を開発し始めている場合もある。これは,既存
の顧客基盤に「小売ならではの金融サービス」を提供し
ようというものである。例えば,イオン社の銀行事業へ
の参入は,小売業が小口金融(リテール)サービスを始
める。イオンの強みは,スーパー,食品スーパー,コンビ
ニエンス・ストアにわたる営業拠点の多さである。子供
が生まれてからの学資保険に始まり,顧客の日々の暮ら
しや人生の,節目,節目,に資金のニーズがあると考え,
かつ,小売はお金を使う場所だけではなく,貯める,殖
やす場所でもある。
NB に対するロイヤルティと PB に対するロイヤルテ
ィ に 差 は ほ と ん ど な い ( Kumar
and
Steenkamp,2007)ことからも明らかなように,消費者
と小売業者の「win-win」関係によるブランドという関
係性の醸成は,CRM 分析におけるデシル分析や RFM
分析などに沿った商品,つまり,定期的に,一定の売り
上げが見込める商品でしか,PB にしない。消費者と小
売業者のブランドという関係性の醸成は,その背景に,
小売業者と製造企業との間に,双方とも利益上の補完関
係があって,初めて成立する。
4.結果
小売業などの商業経営における PB を扱うことの利点
は,最寄品であること,一定の商品の売り上げが見込め
るもの,賞味期限や品質保証期間が比較的長いこと,価
格訴求力があることである。
結果として,サプライチェーンにおけるパワー関係の
変化をもたらした。日本小売業の PB が盛んになった契
機は,アメリカのウォルマートの市場参入であろう。
2006 年,事実上ウォルマートの傘下に入っていた西友
(2008 年 1 月現在では正式に)は,既存の卸売業者で
ある「菱食」との関係を断った。これは,卸売業のパワ
ー低下を象徴するものである。確かに「菱食」にとって,
西友との取引高は 10%に満たないかもしれないが,卸売
業者に与えた衝撃は大きい。一方,EDLP(Everyday
Low Price)を掲げるウォルマートにとって,日本的商
慣行の象徴であるような卸売業者が担う役割とコスト,
返品制,アローワンスなどの帳合いは,直接仕入れ価格
1
Kumar,N.and Jan-Benedict E.M.Steenkamp(2007)に
よれば、
「短期的にはアドホック的な対応で,余剰設備を使って
生産ができ収益が上がるが,長期的には,扱い量が増えれば増
えるほどコストがかさんで,収益を圧迫することにもなりかね
ない(p.133)
」
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に,ひいては店頭価格にはねかえるので,看過できなか
った。西友は日用品において,P&G とユニ・リーバに,
カテゴリーのマネジメントすべて(店舗でかかるコスト
以外のコスト,たとえば,輸送コストなど)を担うよう
に競争させている。日本の日用品を扱う製造業者や卸売
業者といった企業は,このウォルマート式の考え方に同
調できなかった。そこで,西友は独自で商流,物流,情
報流といった流通の機能のうち,特に情報流を統御した
いので,自ら,卸の機能を兼ねた独自の倉庫(三郷セン
ター)を作り始めたのである。それ故,新しい競争が,
「卸売」と「小売独自の物流センター」の間でおきてい
る。情報流を集約できれば,商流も物流も統御できる。
つまり,流通におけるチャネル・メンバーのパワー・バ
ランスは,現在のところ,最終消費者に最も近い小売業
者の品揃え力に傾いている。このことは量販店の台頭に
よって顕著である。
ユニーは,業務提携している伊藤忠商事と食品の共同
開発を始めている。まず青果部門で取り組み,有機栽培
など特徴がある野菜を開発しPBとして販売する。一部
店舗で実験的に販売を開始した。伊藤忠とは衣料部門の
商品開発を進め,店舗の競争力に直結する食品部門に協
業関係を広げる2。共同開発する商品は小松菜やホウレン
ソウなど葉物野菜で,有機栽培や減農薬などの特徴があ
るオーガニック野菜とし,
新たなブランド名で販売する。
伊藤忠が持つネットワークから有機野菜を栽培できる農
家の情報提供を受ける。
小売業者の分業は,流通のフローを他社に委託するの
ではなく,自社グループで分担している点にある。物流
集約型の協業モデルといってもいい。単独ではできない
製品開発や原料調達での合理化を達成できる場合が少な
くない。この場合,商品の企画から,製造,包装,梱包,
輸送,そして,その品揃えなどのマーチャンダイジング
を小売業であるところの自社,あるいは,製造業者が物
流センター運営などを一手に引き受け,そこで,物流コ
ストを削減している。それ故,競争相手になりうる,卸
売業者は,その生存をかけて,
「フルライン化」を行い,
品揃え力を高めている。
まで広がっている。製造業者は小売業者に,NB 商品と
PB の両方を取り扱ってもらえるし,小売業者は,消費
者に,同質製品を「低価格帯」で訴求できる。
「パッケー
ジは違うが中身は同様」という商品を販売可能にするに
は,製造業者と小売業者の協調,そして小売業者の水平
的な取り扱いが欠かせない。
百貨店や GMS のバイヤーは,自分に与えられた予算
で目標となる売り上げと利益を達成するために,製品に
ついて商品企画段階で各製品の製造業者と細部に至るま
で検討を重ねる。このことは,マーケティングの目的で
あるところの「顧客の創造と維持」に直接,小売業者が
関与していることをしめすものである。また,店舗内で
の消費者動線設定,什器の設置方法,品揃え,棚割り,
陳列展開方法においても小売業側にパワーがある。した
がって,
製造業者側からのプッシュ型マーケティングは,
小売段階で,パワーの所在が入れ替わり,偏在する(石
井,1983)
。それ故,製造業者の製品や事業担当者は小
売段階で,上記のような小売にあるパワーを「交渉」し
て,年間取扱量や,棚割り,陳列展開まで関与する。
表 1:プライベート・ブランドのタイプ
例
一般的な
模倣ブラ
上位 のスト
価値の革
PB
ンド
ア・ブランド
新者
カテゴリー
NB とよ
BodyShop や
IKEA や
名のみ記載
く似た名
Tesco
H&M
の白や黒の
前の商品
Finest
差別化でき
より低価
付加価値
ないほどの
格で模倣
包装
戦略
合った成
低価格
目的
価格に見
果
・低価格の
・製造業
選択肢を顧
客に提供
・付加価値を
・最高の
者に対し
製品に
価値を提
て交渉力
・店舗の差別
供
・顧客基盤
を増す
化
・店舗に
を拡大
・カテゴ
・カテゴリー
対する顧
リーに占
の売上増
客ロイヤ
める利益
・利益率を高
リティ構
の中で小
める
築
売業のシ
・口コミ
ェアを増
の発生
す
5.考察
本稿でいう「協調」とは,製造業者と小売業者が共
同する PB 開発用の組織化である3。これは PB が最初に
店頭に並び始めた,菓子類に加えて,日用品,衣料品に
ブランディン
ネームはな
傘となる
サブ・ブラン
色々な商
グ
いか,最初
ストア・
ドか 独自の
品を説明
に価格で区
ブランド
ブラ ンドを
するため
別
かカテゴ
もつストア・
に意味の
リー特定
ブランド
ない独自
の独自ブ
2
2008 年 1 月現在,ユニー,ユーストア,サークル K サンク
ス,伊藤忠商事,ファミリーマートは,5 社で共同開発した低
カロリーの菓子パンや惣菜パンを発売している。販売目標は各
社総計で年間 60 億円。
3 医薬品におけるジェネリック医薬品の登場は,欧米ほど定着
していないが,権利上の問題をクリアした医薬品については,
NB 医薬品と品質的には同等で,NB よりも安価で提供されて
いる。
のラベル
ランド
価格設定
トップブラ
トップブ
トッ プブラ
トップブ
ンドに比べ
ランドに
ンド に近い
ランドよ
て 20-50%
比 べ て
か,それより
りも20-5
安い
5-25% 安
も高め
0%
い
70
カテゴリーの
基本的な機
強いブラ
イメ ージが
全てのカ
範囲
能をもつ製
ンドのあ
わく カテゴ
テゴリー
品カテゴリ
るカテゴ
リーか,生鮮
ー
リーで醸
食品
対するイメージや店舗の魅力,これまでの実績が透けて
見える。上位の PB を購入する消費者は、価格よりもむ
しろ高品質の商品を求め,価格に拘泥しないので, PB
を頻繁に購入しても店舗としての利益率にはそれほど影
響しない(Kumar and Steenkamp,2007)
。
八社会の PB は,従来型の企業ブランドや事業ブラン
ドを拡張していくのではなく,小売業者が共同で商品を
開発し,
原材料調達を分担して,
コストを削減しながら,
生産企業にも一定の生産量を保証できるという「意図せ
ざるブランド」であり,消費される中で「承認」されて
いった。心理学で言われる,
「承認欲求」とは,他人から
尊敬されたい,有能でありたい,支配したいなどのごく
身近にいる人たちから認められたい,認めていると言っ
てもらいたいという欲求である。
企業グループ中心の PB
開発が多い中で,八社会は,私鉄という、基盤は同じで
あるけれども,グループの枠を超えて,小売という業態
間で協力し合って育成された,稀有な事例である。PB
には,NB と比較しても遜色ない品質(知覚品質)が求め
られる。筆者が考える「承認」は心理学の「社会的承認」
概念に近い。社会的承認は自己承認と他者承認に区分さ
れる。PB の場合は,自己承認よりも,他者承認で表現し
たほうが良い。これは「他者に認めてもらう」という概
念であり, 売り手と買い手という観点から言えば,
「消
費者は流通業者が独自で生産,陳列している商品である
ことは了解している」という「段階」であり,ブランド
になっているかどうかはこの段階を経る必要性がある。
知覚→承認→認知という具体化を経て,消費者心理の中
で,認知学習や認知のスキーマやネットワークが知識と
して醸成されていく。従って,承認によって,認知と知
識を架橋し,
ブランディングに至る時間軸を表現できる。
成
トップブラン
品質上劣る
ブランド
ほど ほどの
トップブ
ドと比べた品
化した製
品質か,より
ランドと
質
造業者に
良い として
遜色ない
近い品質
広告
品 質 だ
が,付加
価値のな
い特性と
イメージ
製品開発
なし;遅い
同様の技
同様か,より
コストと
技術レベル
術を持つ
よい 技術で
利益を分
で製造業者
製造業者
最高 の商品
析する上
と契約して
を使って
を開 発する
でかなり
生産
リ バ ー
のに 多大な
の努力と
簡易で,最
ス・エン
努力 を要す
革新性が
低限
ジニアリ
る
必要
ング
出来る限
独創 性があ
独創性が
パッケージン
りトップ
り,差別化の
あるがコ
グ
ブランド
源泉
ストがか
に近く
棚の場所
かる
見にくい場
トップブ
目に 付きや
店舗全体
所
ランドに
すい場所
から見て
近い場所
通常の場
所
広告/プロモ
なし
ーション
頻繁な価
広告 で取り
独自ブラ
格プロモ
上げるが,限
ンド用の
ーション
定的 な価格
広告では
プロ モーシ
なく,店
ョン
舗や通常
のプロモ
6 結びにかえて
小売段階におけるブランディングの重要性を,製品で
はなく,全社レベルのブランド・エクイティをうるまで
に高めるためには,PB の品質はもちろん,価格を含めた
NB との相対的な知覚(意味づけ)の差異を埋める必要
がある。つまり,NB と同様の知識ネットワークを消費
者の頭の中で構成してもらう必要がある。
ということは,
消費者にとって NB と変わらない価値(有効性)やベネ
フィット(心理的利益)を訴求する必要があるというこ
とである。そのためには,流通業者が製造業者と遜色な
いコスト負担や環境への配慮をしているということを,
消費者に認知してもらうようにコミュニケーションをと
らないといけない。事実,コンビニエンス・ストアは,
減益の傾向にある。出店競争でコンビニ間の競合が厳し
さを増したうえ,24時間スーパーの増加など異業種と
の競争も激化して店舗支援費や改装費の積み増しを迫ら
れて収益を圧迫し,業界全体が過当競争に陥り始めてい
る。この状況下で,各社が PB に力を入れるのは,原材
料調達から品質管理までの一貫体制によって,物流など
ーション
予定に組
込む
顧客への提案
最も安い価
同様の品
市場 におい
汎用品の
格設定され
質だが,
て最 高の商
中で一番
た商品とし
より安価
品と して販
対コスト
て販売
で販売
売
効果が高
いが,ト
ップブラ
ンドと同
じ品質
出典)Kumar,N.and Jan-Benedict E.M.Steenkamp,
2007,pp27-28 に一部加筆修正
小売業における PB 開発は,むしろ企業ブランドに依
存して PB を開発している点で,これまでの PB 開発と
は異なる。表 1 における「一般的な PB」
,
「模倣ブラン
ド」から「上位のストア・ブランド」
,
「価値の革新者」
に向かっている。従って,PB の後ろには当該小売業に
71
のコストが抑えられ,高い利益率を確保できる他,品揃え
でも「他社との差別化」を図れるからである。
筆者は,小売マーケティングにおける競争環境を分析
するための分析枠組みとして,資源ベースの企業観
(RBV)や動態的ケイパビリティ論,知識ベースの企業
観を考えている。これらの考え方によれば,ブランドも
重要な資源であり, PB は,その商品を扱うこと,限定
的に購入できることにおいて,隔離メカニズムを発生さ
せる。但し, VRIO の基準である,希少性,模倣可能性
については,問題が残る。それゆえ,PB 開発には,小
売業側からの製造業者への情報提供と,製品開発への関
与の程度が大きければ大きいほど,希少性と,模倣可能
性はクリアできるかもしれない。したがって,競争優位
の前提となるレント概念では,情報レント,組織(特に
チームや技術)において,占有可能な準レントが発生し
うる。また,知識ベースの企業観で考えると,
「ブランド
になりそうなもの」を,情報の学習によって,知識化し
ていくプロセスが考えられる。これら2つの視角によっ
て,ブランディングを考察する場合においても,本稿で
示した「承認」概念は有効である。なぜなら,ブランデ
ィングの状態になりたい企業や製品は,ブランディング
のプロセスにおいて,どの状態にあるのかを把握できる
からである。この把握には,承認概念を取り入れた,経
時的で,ある程度長期的な実証研究が必要であり,これ
は筆者の今後の課題となる。
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Toshihisa Sato
Takasaki University of Commerce, Gunma
t-sato@tuc.uv..ac.jp
Abstract: Brand is "connected”,and,“the situation and relations between two thing of who seem to become a customer and what
seem to become the brand is ".The purpose of this article is , through a case of private brand development of “Hasshakai”in Japan,
that points out estrangement between "brand recognition" and "the brand knowledge" that are the mainstream of the current brand theory.
And I show "approval" as a concept to fill the estrangement and offer a new viewpoint, and it is to clarify of why the profitability of
private brand increase in the retail business by considering a change of the power balance in the channel
Key Words: private brand, approval, profit ability, power balance in channel
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