爆発・防爆の基礎知識4 防爆電気機器とガスの危険性 もくじ 1. 高温・低温による発火の危険性 …2 2. 耐圧防爆構造とすきま …4 3. 電気火花が原因の着火 …5 株式会社イプロス Tech Note 編集部 前回は、爆発防止の考えと実施について説明しました。今回は、防爆 電気機器とガスの危険性を解説します。電気火花、静電気が原因で生 じる放電、電気機器の高温部は、着火源になるので、十分に注意する ことが必要です。 1. 高温・低温による発火の危険性 電気を使うと、そのエネルギーは熱に変わります。掃除機を使った後、 電源コードに触れるとコードが熱くなっています。明かりの付いた状態 で、白熱電球などの照明器具の発光部に手で触れると、やけどするほ ど熱くなっています。また、建築作品に光を当てるための照明器具が、 作品に触れたことにより火災が発生することがあります。このように、白 熱電球などの電気エネルギーによる熱が原因で、火災が発生すること が分かります(図 1) 。一方で、引火のように低温で発火することもあり ます。高温による発火の他、低温による発火についても解説します。 図1:電気エネルギー による熱が原因で起こ る燃焼 爆発・防爆の基礎知識 4:防爆電気機器とガスの危険性 C OP Y R I G HT © I PROS CORPORATION AL L RIG HTS RESERVED. 2 ・高温による発火 電気設備や電気機器は使用と共に高温になる他、振動が原因で電線の 接続部が緩み、その接続部が高温になることがあります。これは、電流 の流れる線が短くなることや、導体同士の接触する面積が小さくなるこ とで、ジュール熱という熱が発生するために起こります。 一般に、ガス蒸気の温度が上昇し、自然に発火するときの最小の温度 を発火温度と呼びます。発火温度は、発火点と呼ばれ、ガス蒸気と空 気の混合ガスが高温面に接触したときに発火する最小の温度です。例 として、ガス蒸気の発火温度は、二硫化炭素は 90℃、ジエチルエーテ ルは 160℃、アセトアルデヒドは 175℃、ガソリンは 257℃、エタノー ルは 363℃ほどであることが知られています。 ガス蒸気が、電気機器の高温の外部表面や機器内の高温部に触れたと き、ガス蒸気と接触する表面の温度が発火温度よりも高くなると着火す る可能性があります。ガス蒸気が発火温度を超える表面と接触すること がないように、防爆電気設備を設計することが必要です。火災や爆発 災害の発生防止には、ガス蒸気の発火温度よりも低い表面温度の防爆 電気機器が必要になります。 ・低温による発火 ライターの火のような小さな火炎を、ガソリンなどの可燃性液体に近づ けたとき、そこから出る蒸気により燃焼が起こる最小の温度を引火点と いいます。引火点が低い可燃性液体ほどガス蒸気を出しやすく、爆発 性雰囲気になりやすいといえます。例として、可燃性液体の引火点は、 アセトンは−20℃、エタノールは 13℃、ガソリンは−43℃ほどであるこ とが知られています。この温度から、ガソリンは氷点下でも燃焼するこ とが分かります。 爆発・防爆の基礎知識 4:防爆電気機器とガスの危険性 C OP Y R I G HT © I PROS CORPORATION AL L RIG HTS RESERVED. 3 2. 耐圧防爆構造とすきま 一般に防爆電気機器は、着火源がガス蒸気に着火しないように作られ ています。電気機器の容器のすきまから侵入した爆発性の雰囲気が、 容器の内部にある着火源が原因で着火することがあります。耐圧防爆構 造は、容器外部に着火しないように、すきまの寸法が検討されていま す(図 2) 。耐圧防爆構造では、接合面にあるすきまを通じて爆発性雰 囲気が電気機器の内部に侵入し、容器の内部で着火して爆発しても、 容器が爆発の圧力に耐えられることが必要です。耐圧防爆構造の電気 機器は、接合面を適切な寸法にすることで、機器の外部の爆発性雰囲 気による着火を防止できる作りになっています。 図2:耐圧防爆構造(引 用:産業安全研究所技 術指針、独立法人労働 者健康安全機構 労働 安全衛生総合研究所、 NIIS-TR-NO.39、2006 年、P.35) すきまの奥行き(L)を 25 mm にし、すきま(W)を小さくすると、着 火の起こらないすきま(W)の最大の大きさが分かります(図2) 。そ のすきまの大きさを、最大安全すきま、または、火炎逸走限界と呼び ます。電気機器の容器のすきまを埋めるために、パッキンなどを使用 することは認められておりません。 爆発・防爆の基礎知識 4:防爆電気機器とガスの危険性 C OP Y R I G HT © I PROS CORPORATION AL L RIG HTS RESERVED. 4 3. 電気火花が原因の着火 自動車のバッテリーにつないだ 2 本のブースターケーブルを接触させる と、電気火花が発生します。電気火花は、電源が入ったノートパソコン などの電子機器の電源プラグや、電気器具を 100 V のコンセントに差し 込むときにも発生します。 電気火花は、電圧の異なる二つの導体が接触するときに発生します。 空気中で起こる電気火花は、着火源になります。ガス蒸気が空気と混 ざると、 爆発性雰囲気になります。しかし、 電気火花の着火源があっても、 火災や爆発災害が起こらないことがあります。ガス蒸気が漏れたときの 濃度を 100 vol.% とすると、空気と混ざることでその濃度が低下します。 ガス蒸気の濃度が火災や爆発災害を起こすのに必要な濃度の範囲にな らなければ、着火源があっても火災や爆発災害は起こりません。火災 や爆発災害が起こるガス蒸気の濃度を、爆発限界と呼びます(図 3) 。 爆発限界は、ガス蒸気の濃度が低い爆発下限と、濃度の高い爆発上限 の範囲になります。ガス蒸気が爆発限界の範囲の濃度になるとき、 スイッ チなどの開閉接点や電線の接続部の不良、あるいは断線が起きたとき の電気火花で、ガス蒸気が着火します。 100% 図3:爆発限界 0% ガス蒸気 爆発上限 爆発限界 爆発下限 0% 空気 100% 爆発・防爆の基礎知識 4:防爆電気機器とガスの危険性 C OP Y R I G HT © I PROS CORPORATION AL L RIG HTS RESERVED. 5 本質安全防爆構造とは、電気回路で生じる電気火花がガス蒸気に着火 しないことが確認された防爆構造のことです。本質安全防爆構造の電 気回路で生じうる電気火花の着火試験は、国際電気標準会議(IEC)の IEC6007-11(本質安全防爆構造) で定められた着火試験装置で行います。 電気機器の電気回路には、電源と抵抗で構成される抵抗回路、電源と インダクタンスと抵抗で構成される誘導回路、電源とコンデンサと抵抗 で構成される容量回路があります。各種回路で着火試験が必要になり ます。各種回路を開閉させたときに生じる電気火花の着火限界は、最 小着火電流あるいは最小着火電圧と呼びます。 いかがでしたか? 今回は、防爆電気機器とガスの危険性を説明しまし た。次回は、防爆電気機器について解説します。お楽しみに! 爆発・防爆の基礎知識 4: 防爆電気機器とガスの危険性 初版 2020 年 5 月 13 日 著者: 工学院大学 工学部 電気電子工学科 准教授 市川 紀充 発行元: 株式会社イプロス Tech Note編集部 E-mail:media@ipros.jp URL:https://www.ipros.jp/technote/ 爆発・防爆の基礎知識 4:防爆電気機器とガスの危険性 C OP Y R I G HT © I PROS CORPORATION AL L RIG HTS RESERVED. 6