平成 26 年度 群馬大学工学部 工学系フロンティアリーダー育成コース(FLC) 先端研究キックオフ発表会 高性能演算増幅器の設計 電気電子工学科 桑沢 龍亮 指導教員:小林 春夫 教授 1. はじめに 演算増幅器(Operational Amplifier)は増幅回路, フィルタ回路,発振回路など様々なアプリケーション で使用されている.特に集積回路上には多くの演算 増幅器が使用されており,これらは各々の用途に最 適な性能に設計する必要がある.しかし,演算増幅 器の設計には,基礎的な電気回路・電子回路から電 子デバイス・制御工学などの幅広い知識が必要となり 容易ではない.本研究では高性能な演算増幅器を 設計すること,およびその過程を通じてアナログ集積 回路技術を習得することを目的とする. 4. 結果および考察 図 2 に評価結果の例として,周波数特性のシミュレ ーション結果を示す.表1に設計した演算増幅器の 全項目の評価結果を示す.結果はすべて目標性能 を満たしている.しかし,一般的な演算増幅器の性能 と比べると,直流利得が低く,出力抵抗を高いといえ る.これらは,直流利得誤差によるオフセットや,負荷 抵抗を接続した時の出力電圧誤差の要因となる.今 後は,能動負荷のカスコード化やソースフォロワ段の 追加によりこれらの性能改善を試みる予定である. 80 60 Gain 60 0 Phase 2 段構成演算増幅器の設計 設計する演算増幅器は,前段に差動増幅回路, 後段に nMOS 能動負荷のソース接地増幅回路を用 いた 2 段構成とした.図 1 に設計した演算増幅器を 示す.各 MOS のサイズは W/L 比で示しており,基本 単位は um とする.図中の番号の順番に設計すること で,すべての MOS のサイズを決定した.手順は以下 の通りである.初めに,①負荷容量から位相補償容 量を決定する.次に,②目標のスルーレートから差動 入力回路のテール電流を決定する.そして,③目標 の利得帯域幅積から差動入力段の gm を決定し, ④・⑤目標の同相入力範囲の上下限から差動入力 段の上下の MOS のサイズを決定する.最後に,⑥出 力段 pMOS は入力段との gm 比から,⑦出力段 nMOS は M4 の飽和条件からサイズを決定した. 3. 3.0/0.2 3.0/0.2 ④ Vinmax ③ gm1,2 = ωu・Cc 6 4.6/0.2 4.6/0.2 1.7/0.2 ② I5 = SR・Cc 3.4/0.2 5 ⑦ M4飽和条件 20.4/0.2 Gain [dB] -60 20 -120 0 -20 -40 -1 10 -180 直流利得 56.7dB 位相余裕 72.8deg 利得帯域幅積 190MHz -240 -300 1 10 10 3 5 7 10 10 Frequency [Hz] 9 10 図 2. 周波数特性のシミュレーション結果 表 1.設計した演算増幅器の評価結果 評価項目 目標性能 結果 判定 電源電圧(VDD) ≦ 3V 3V OK 消費電流 ≦Δ50% Δ17% OK 消費電力 ≦100mW 1.30mW OK 出力抵抗 なし 944Ω OK 直流利得 ≧40dB 56.7dB OK 位相余裕 ≧45deg 72.8deg OK 利得帯域幅積 ≧1MHz 190MHz OK 入力換算雑音 なし 0.01mV/Hz0.5 OK スルーレート ≧0.1V/us 78.1V/us OK 同相除去比 ≧40dB 62.0dB OK 全高調波歪 なし 0.001%以下 OK 電源電圧除去比 ≧40dB 72.2dB OK 出力電圧範囲 ≧VDD・5% VDD・93% OK 同相入力範囲 ≧VDD・5% VDD・98% OK 占有面積 ≦1mm2 0.027 mm2 OK 5. まとめ 2 段構成演算増幅器を設計し,目標性能を満たす 結果を得ることができた.なお,今回設計した演算増 幅器はコンテストの要件をすべて満たしている.今後 改良を加え,来年度はコンテストに挑戦しようと思う. ① Cc > 0.2Cout 0.3pF ⑤ Vinmin 8 ⑥ gm6 = 10 gm1 37.8/0.2 100kΩ 40 7 図 1. 設計した演算増幅器(番号は設計手順) 6. 参考文献 [1]平成 26 年度演算増幅器設計コンテスト http://www.ec.ce.titech.ac.jp/opamp/2014/ [2]谷口研二・『CMOS アナログ回路入門』・CQ 出版 Phase [deg] 演算増幅器の目標性能と評価方法 目標性能・評価方法は応用科学学会主催の演算 増幅器設計コンテスト[1]で公開されている仕様要件・ 評価方法を用いた.演算増幅器の設計・評価には Linear Technology 社の回路シミュレータ LTSpice を 使用し,シミュレーションモデルは TSMC 社 CMOS 0.18µm のプロセスパラメータを用いた. 2.